「うう、酷い目にあった」

 午後から仕事があるから短い時間だったけど、二人のデートにつきあったら大変だった。
 あれもこれも俺の奢りで買っていき、最終的には工務店で買った物の金額を超えていった。
 庶民の市場でどんだけ散財したんだろう。
 まあお金落とせたと思った方がいいのかな……
 二人は笑顔になって、午後の仕事に向かっていった。

「サトー様。すみません、私がペンダントを買ってもらったばかりに」
「シルクが謝る必要はないのじゃ。これは二人にプレゼントを買い忘れたサトーが悪い」

 シルク様は俺に謝ってくるが、ビアンカ殿下が俺のことをバッサリと切り捨てた。
 うう、俺が抜けていたから反論の余地もない。

「アニキ駄目っすよ。うちのもプレゼントとか忘れると、かなり不機嫌になるっすよ」
「儂だって、遠征に行ったらお土産を買ってくる。一度買い忘れて、夕食抜きになったことがあったぞ」

 獣人部隊の人も軍務卿も、旦那の先輩としてアドバイスしていた。
 皆、奥さんのご機嫌取りに苦労しているんだな。

「父上だって、定期的にプレゼントをしておる。サトーはあの二人とはほぼ結婚したも同然、これからも気を使わぬとまた同じ事になるのじゃ」
「はい、気をつけます……」

 トドメに八歳児から駄目出しをくらった。
 前世でも女性と付き合ったことないし、この辺のスキルがとことん弱いな。

 よし、仕事に打ち込んでスッキリしよう。
 そう思ったら、既に獣人部隊の人と魔獣から人に戻った人達が、手分けして建物の修繕とペンキの下地塗りや内部のワックス塗りをしてくれていた。
 手伝って貰ってすみません。
 買ってきたペンキとかを出し終えたら完全に用無しになってしまったので、仮の執務室にしている倉庫の一角に行くことに。

「サトー様、こちらで仕事ですか?」
「はい、屋根の修繕とかは獣人部隊がやってくれる事になりまして」
「その前に屋根を修繕する貴族当主はいませんかと」

 ダニエル様に苦笑されながら、書類を開始する。
 うーん、やっぱり街の被害もあるな。

「ダニエル様、木材とかは足りそうですか?」
「今の所は大丈夫です。怪我人の方も回復してきたので、少しずつですが動き始めていますよ」

 住民への被害も大きいし、完全に復興するには時間がかかりそうだ。

「ブルーノ侯爵領への山道が整理されれば、周辺の物流も以前よりやくなります。そうなれば復興も早まると思いますよ」
「そう言えばルキアさんも直ぐに整備するって言っていたので、近い内に全面開通するといいですね」

 大貴族のブルーノ侯爵領と直接交易ができるようになれば、小規模領の貴族にもメリットがある。
 ここはルキアさんに頑張ってもらわないと。 

「軍の駐屯地も、既にビアンカ殿下が動いて下さっているので、最低限の施設は揃ってます」
「国境でも駐屯地造成を行っていたから、その分手早くなってますね。レイアも混じっているから、やりすぎないかが心配ですけど」

 早ければ今日の夕方にも軍が到着するから、その前に最低限の施設ができて良かった。

「後は文官とメイドの補充ですね」
「孤児になった人とかには声をかけてあります。後はリン様がブルーノ侯爵方式って言って、文官候補生のリストを持ってくるそうです。騎士団の補充も同様です」
「ララ達の一次審査を通過した人なので、悪人は混じっていないかと。ブルーノ侯爵領での文官採用試験で使った問題を出しておきますね」

 執務する所はどうにかできるけど、人材は確保しないと。
 目安がついているなら、資料を提供して面接はダニエル様にお願いしよう。
 それに騎士も亡くなっている人が多いし、軍がいるとはいえ国境の件もある。
 人数を確保しておいて損はないだろう。
 その後も書類整理をしていたら、ヘレーネ様が俺達を呼びに来た。

「サトー様、ダニエル。軍が到着しました。軍務卿が来てくださいとの事です」
「分かりました、直ぐに向かいます」

 屋敷の前に向かうと、到着した軍を軍務卿が迎えていた。
 工兵も含まれていたから、国境の防壁や駐屯地を強化するのだろう。
 既にビアンカ殿下やスラタロウが、色々施設を作っているけど。
 そんな中、軍務卿が俺に話しかけてきた。

「サトー。今日は軍の歓迎をするから、スラタロウを連れて行く。エステルも連れて行くぞ」
「それは構いませんが、エステル殿下はスラタロウの食事目当てですね」

 軍務卿はニヤリとしただけで、特に何も言わなかった。
 それでも俺の予想は当たりだろう。
 自らスラタロウを抱いてウキウキのエステル殿下の事を、誰も何も言わなかった。