俺は獣人部隊の一人だ。
 昨日に引き続いて森の方にいる。
 偉い人の護衛をすることになった。
 何故俺が王子様とか王妃様とかを護衛しないといけないかという疑問とともに、王妃様達が張り切って戦闘準備をしているのが気にかかる。
 うん、また超人のオーラがひしひしと感じるよ。王妃様達の笑みが超怖い。
 ちなみに昨日いた同僚は、さっさとゴレス侯爵領からくる敵の迎撃隊に志願していた。
 警護は経験者がいいと、俺に押し付けて。

「あっ、ビアンカお姉ちゃん。森の中に悪い人がいるよ」
「おお、よく見つけたのう。スラタロウよ、こちらに連れてくるのじゃ」

 昨日無双した超人の一人のミケちゃんが、森の中で誰かを見つけたといっている。
 くそ、同じ獣人の俺が目を凝らしてやっと見つけられるレベルをこうもアッサリと見つけるとは。
 ミケちゃんの隣りにいる背の小さな女の子も、もちろん只者ではない。
 手合わせをしたことはないが、とてもではないが勝てないだろう。
 そしてミケちゃんの腕の中にいるスライムは、もう普通のスライムとは思わない。
 あの大規模魔法を放って余裕でいるところをみると、誰もが超人だと納得する。
 
 スライムが一瞬消えたと思ったら、再び現れた時には見つけた敵をこちらに連れてきていた。
 隠密活動をしていたのか、暗めの色の服に頭巾を被っている。
 あっという間に、アルケニーによってぐるぐる巻きにされている。
 連れてこられた男は、何がなんだかわかっていないようだ。
 
 ひゅっ、ピシ。

 突然男の喉元に、ムチが絡みついた。
 男は突然自身におきた事に、完全にパニック状態だ。
 ムチを操っているのは、ライラック様と言われた陛下の側室。
 そしてフローラ様と言われた、これまた陛下の側室がキラリと剣を抜いた。
 トドメに王妃様が男に近づき、顎をくいってやっている。
 うわあ、男に向ける笑顔がとっても素敵だ。
 男はようやく自分の置かれた状況を把握したのか、涙目になって顔面は真っ青。大量の汗を流してガクガクブルブル震えている。
 分かる、わかるぞ。
 俺も超怖いもん。俺は何で二日連チャンでこんな怖い目にあうのだろうか。

「答えなさい。素直に答えれば、捕虜として保護します」
「ひ、ひゃい!」
「もし、素直に答えなければ……ねえ?」
「は、はなひましゅ。はなひましゅ」
「そう、素直な子はお姉さん好きよ」

 わー、何だあれは?
 本物の王妃様による女王様プレイじゃないですか。
 男は更にガクガクブルブルしていて、うまく喋れていない。
 あーあ、とうとう漏らしているよ。
 分かる、分かるぞ。俺も決して同じ立場になりたくないし。

「森からくるのは、無理矢理魔獣にされた人?」
「い、い、いいえ」
「昨日と同じ規模の魔物溢れ?」
「い、い、い、もう、少し、多い、と」
「森の中には、あなた以外に人はいる?」
「あ、あ、あ、と、三人」

 人数を聞いて、あのスライムがササッと残りを連れてきた。
 あっという間に拘束された三人は、女王様プレイを受けている同僚を見てガクガクブルブル震えだした。

「うーん。ビアンカお姉ちゃん、もう人はいないみたいだよ」
「そうか、この者どもが言っているのは間違いないな」

 ミケちゃんが素早く辺りを探索し、王女様も頷いている。
 こちらの戦闘準備は、これで大丈夫みたいだ。

「アルス王子、陛下は大変だな」
「まあ、何もやらかさなければ平和ですから」

 軍務卿が、思わず王子様に聞いている。
 その横では、もう二人の王子様も思わず苦笑している。

「あ、ビアンカお姉ちゃんきたよ」
「ようやくか。待ちくたびれたのじゃ」

 と、ここで森の中から魔物や魔獣が出てきた。
 確かに昨日よりも多めだ。
 すると、王妃様がシルク様という貴族令嬢を前に連れてきた。
 この貴族令嬢も、ごっつい杖を持っているな。

「ミケちゃん、森はある程度壊れても大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。昨日の魔物のとかで、普通の動物さんがやられちゃったみたい」
「そっか、なら遠慮はいらないわね。シルク、思いっきりやりなさい」
「はい!」

 周りに被害が出てもいいと判断したので、王妃様さまは貴族令嬢に思いっきりやっていいと声をかけた。
 貴族令嬢は杖を掲げると、魔力が集まりだした。

「シルクお姉ちゃん、思いっきりやっちゃえ!」
「はい、えーい!」

 ズドーン、ズドーン、ズドーン。

 貴族令嬢の可愛らしい掛け声とは裏腹に、とんでもない雷撃魔法が炸裂する。
 おお、魔獣や魔物が紙切れの様に消し飛んでいるよ。
 
「うーん、私も少し暴れたいわ」
「私も同じく」
「シェリーの仇をとらないと」
「ミミもやるー」

 俺は今起こっている目の前の光景が信じられない。
 王妃様に側室お二人と、軍務卿といつもいるうさぎ獣人の小さな女の子も、追加で魔法を放ち始めた。
 炎や風に水魔法と種類は違うが、どれもが凄まじい威力だ。
 小さな女の子が放つ聖魔法の威力もものすごい。

 それから五分後。

「ふう、スッキリした」
「久々に暴れられましたね」
「これでシェリーも、少しはうかばれるかな?」

 王妃様と側室お二人が何か言っているが、目の前がとんでもないことになっている。
 魔物や魔獣どころか森までが消し飛んでいて、あたり一面が焼け野原になっている。
 沢山のクレーターができていて、放たれた魔法の威力の凄さを物語っている。
 王子様と軍務卿は苦笑しているが、囚われていた敵の偵察は呆然としていた。
 自分達が戦おうとしていた相手の実力が、ようやく分かったようだ。

「さて、後始末をするか。ミケとシルクもこい」
「はーい」
「分かりました」
  
 焼け野原にクレーターだらけになった一帯に、王女様がスライムを連れてなにか魔法を唱えた。
 すると、クレーターだらけだった焼け野原があっという間に平らになり、頑丈そうな防壁が現れた。
 囚われていた敵の偵察は、もう愕然と項垂れていた。

「さてと、こんなもんかのう」
「そうだね、辺りに悪いのはいないよ」
「これで兵を配置すれば、直ぐに動けますね」

 王女様達が一仕事終えたといった感じて、こちらに戻ってきた。
 直ぐにギース伯爵領の騎士が、作られた防壁の上に立って監視を始めた。

「さあ、帰ってお茶でも飲みましょう」
「そうですわね。他の人の帰りを待ちましょう」
「私もシェリーに報告しないと」

 王妃様達は、スッキリした表情でスタスタと帰り始めた。
 軍務卿と王子様も後に続く。
 
「あーあ、今日は何もやらなかったな」
「仕方あるまい、シルクの初陣を飾ったとしておけばよいのだぞ」
「ヒヒーン」

 そして、昨日活躍した超人達はつまらない様子で帰路についていた。
 戦闘開始から防壁を作り終えて帰るまで、かかった時間は僅か十分。
 俺は今日も何もすることなく、帰り路についた。