「「「「おー!」」」」
「こ、これがスライムが作った料理?」

 皆戻ってきたので、早めの夕食。
 今日のスラタロウの逸品は、人数が多いのでオーク肉のビーフシチューに野菜スープ。
 ビーフシチューは前にも作ったからか、野菜の出汁を取ったりと更に手が込んでいる。
 パンとご飯が選べていて、兵士はご飯を選んでいる人が多いな。
 
「お、美味しい。こんなに美味しい料理は初めて食べました」
「だよね。私はもうスラタロウの料理の虜だよ」
「その気持ちはよく分かります」

 ビーフシチューを一口食べたヘレーネ様は、その美味しさに感動している。
 子ども達と兵士も、美味しいとガツガツ食べている。
 俺もビーフシチューを食べるが、改めてスラタロウの料理の美味しさに感動だ。

「あの、すみません。私達にも何か食事を頂けますか?」

 匂いに誘われて街の人から声がかかったが、スラタロウはその位折り込み済み。
 俺達も食べ終えた人から、直ぐにお屋敷の前で炊き出しの準備を始める。
 
「エステル様、皆さん手慣れてますね」
「まあ、色々な領地で炊き出ししているからね。ヘレーネは休んでていいよ」
「いえ、私も手伝います。できることは手伝います」
「流石は軍の女神様だね」

 あれ? エステル殿下がヘレーネ様に言った軍の女神様とは何だろう?
 その疑問には、軍務卿が答えてくれた。

「ヘレーネは回復魔法の使い手でな。よくボランティアで、教会や軍で無料で治療していたのだ」
「だから軍の女神様なんですね。エステル殿下も呼び捨てで呼ぶほどに親しい訳だ」
「軍の強面からも評判良くてな。是非我が家に嫁にきてくれと、いくつもの求婚があった。まあ昔からの婚約者がいたから、全て断っていたがな」
 
 そういうわけか。
 それなら軍の女神様と言われても納得がいく。
 今も炊き出しの横に仮設した治療所で、直ぐに治療を始めている。
 人のお世話をするのが好きなのかもしれない。
 話し合いができるようになるにはもう少し掛かりそうだから、俺も治療に参加しよう。

「ふう、とりあえず一段落ですね」
「また明日改めてやりましょう」

 日も落ちて夜になったので、炊き出しも治療所も今日は終了。
 明日に向けて、スラタロウ作成の食堂で色々話をすることに。
 明かりの魔道具もあるので照明も問題ないし、皆で紅茶を飲みながらゆっくりしている。
 軍務卿はお酒飲んでいるが、量は少な目にするという。
 その前に改めて自己紹介だか、驚かれたのはミケとリンさん。

「ミケちゃんって、貴族の当主なのですか?」
「そうだよ。でも、貴族っぽい事してないし、呼び方もミケでいいよ!」
「はあ……」

 まさかこんな小さい獣人の女の子が、武功で貴族になるなんて信じられないだろう。
 だけど、ミケもこれまでかなり活躍しているからな。

「リン様も貴族当主ですか。同級生で貴族当主になれたのは、一番早いんじゃないですか?」
「といってもほぼサトーさんについていった結果だし、当主といっても名誉爵位だから一代きりだしね」
「それでも凄いです。尊敬します」

 ヘレーネ様がリンさんに向ける眼差しは、まるでアイドルを見ているかのようだった。
 まあ同級生が名誉爵位とはいえ新しい当主になったのだから、俺もヘレーネ様の気持ちは分かる。

「ちなみに私とリンちゃんは、サトーの婚約者候補。サトーが伯爵になれば、めでたく結婚かな」
「え、えー!」

 エステル殿下が、ついでというか余計な情報を流した。
 ヘレーネ様はビックリして、驚いた表情で俺とエステル殿下とリンさんを交互に見ていた。

「明日のことについて話をしますか」
「思いっきり話を切り替えたのう」

 ビアンカ殿下がニヤニヤしながら言ってくるが、このままでは話が始まらないですよ。

「軍務卿、明日朝に飛龍部隊がくるんですよね?」
「そうだ。行きは、アイザック伯爵とかギース伯爵の王都の屋敷の人が乗ってくる。帰りに三人の当主を王都に護送する予定だ。部隊も明日朝王都を出るが、早くても明後日の夕方到着だな」

 飛龍はそこまで人を乗せられないから、まずは重要な人がきてから他の人は明後日の夜につく。
 といってもお屋敷がボロボロだから、作り直すといっても仮住まいは必要だろう。

「ビアンカ殿下、明日は国境付近の防壁を作らないといけないですよね?」
「うむ。本来は屋敷の事もどうにかしないとならぬが、どうしても防衛が先になる」
「朝一で簡単な倉庫とか作れますか? 荷物とかはできるだけ運び出しておきたいので」
「そのくらいなら問題はない。明日朝すぐにやろう」

 荷物はアイテムボックスに入れれば運び出しとかできるから、俺だけでも対応できる。
 必要不必要とかあるから、そこはヘレーネ様に見てもらわないと。

「ブルーノ侯爵領やランドルフ領の様に残党がいると思うので、ミケやララとかと一緒に街を巡回させましょう」
「そのほうが良いのう。ポチとかをつけて、直ぐに拘束させるようにするのじゃ」
「ミケとララ達も良いかな?」
「ミケにお任せだよ!」
「ララ大丈夫!」
「リリも」
「レイアは、ビアンカ殿下と一緒の方が良いかな?」
「その方が、妾としても助かるのう」
「レイアも頑張る」

 子ども達はこれでいいかな。
 炊き出しとかはいつものメンバーでいいだろうし、ヘレーネ様も手伝うと言ってくるだろう。
 マリリさんはほぼノア様に付きっきりになるけど、こればかりはしょうがないな。
 もう一つ確認しないといけないことがある。

「軍務卿、捕まえた三人の当主の領地の確認も必要ですよね?」
「本音だと今すぐにでもサトーに向かってもらいたいが、ギース伯爵領も国の要所だからある程度は復旧させないとまずい。王都から部隊を出すというが四日はかかるからな」
「中々悩ましいところですね。確かここからも三日はかかるという」
「周辺は小領地ばかりで他に上位貴族もいないから、国の代わりに兵を派遣することもできん。当主が不在になって、大人しくしてくれればいいがな」
「そう願うしかないですね」

 こっちも忙しくて手がまわらないから、あちら側が大人しくしてくれることを祈るばかりだ。