「主人、街の中に入ったら嫌な感じが少し落ち着いたぞ」
「もしかしたら、この後俺達が別れるのを期待しているかもしれない」

 そんな事をシルと念話で話ながら、道中を進んでいく。
 この街は国最大の冒険者ギルドがあるだけに、とても人が多い。
 それに冒険者もあちらこちらに見受けられる。
 冒険者の多さもあってか、街を警備する騎士の人も多そうだ。
 なるほど、この冒険者の多さが街の発展に一役買っているんだな。

 馬車はゆっくり進んで、市場の方に進んでいく。
 珍しい食べ物とかも売っていて、市場も活気がついている。
 どんなものが売っているか、見回るのが楽しみだ。
 市場を見ていて気がついたことが二つ。
 一つは、お金の単位はゴールドだけど大体の物価は日本円と一緒みたい。
 ということは、100万ゴールドのカードがあるけど、100万円持っているのと同じ。
 ……わーお、とっても大金持っていることになるぞ。盗難注意だな。
 もう一つが、買い物の際に硬貨や紙幣を使っていなく、お互いのカードをかざすだけで買い物が完了している事。
 異世界の方が日本よりもお金の管理が発達しているかもしれない。
 よく周りを見ると、中世的な建物も多いが、中には近代っぽい建物もある。
 流石にマンションみたいな建物はないけど、文化もそこそこ発達しているようだ。

 なんて考えながら馬車は進み、市場から住宅街、住宅街から高級住宅街に進んで行きます。
 そして見えてきたどーんと大きい建物と敷地。

「うわー。おっきいおうち!」

 馬車からミケの声が聞こえたが、その気持ちはよくわかる。
 うおー、バルガス様物凄いところに住んでいる。
 兵士が警備している門を抜け、西洋風の立派な建物が建っている。
 入口には、執事さんとメイドさんがずらっと並んでいる。
 ……あかん、日本と別世界すぎる。思考が追いつかないぞ。

 馬車が入口の前に止まり、バルガス様が降りてきた。

「「「おかえりなさいませ。御館様」」」

 執事とメイドが声を揃えてバルガス様を迎えている。
 いつか見た漫画のような光景が、目の前に広がっている。

「このグレイ、御館様が襲撃を受けたと聞いて、とても心配致しました」
「ははは、心配かけたな。この通りピンピンしておるぞ」
「左様にございます」

 執事さんはグレイさんというのか。そりゃ仕えている人が襲われれば、心配もするよね。
 と思ったら、バルガス様とグレイさんが何かヒソヒソ話始めた。

「グレイ、念の為館の警備を厚くせよ。それから馬車と馬具を念入りに点検するように。何かあったらすぐ私に報告するように」
「かしこまりました」

 バルガス様も、敵は近くにいると踏んでいるみたいだ。
 やっぱりどこかで無理言ってでも、話を聞いた方がいいな。

 馬車からはバルガス様がおり、メイドが手を引いてビアンカ殿下を下ろし、最後にスラタロウを抱えたミケが元気良く降りてくる。
 ビアンカ殿下は何回かバルガス様の所に来た事があるらしく、メイドの対応も普通通りだ。
 そして元気が良い猫耳幼女を見て、メイドさんもほっこりだ。

 バルガス様と、メイドさんと、ビアンカ殿下と手を繋いでいるミケは、そのままお屋敷の中に入って行った。
 ……。
 ……。
 ……、あれ?今、ミケも何事もないようにお屋敷の中に入っていかなかった?
 ……。
 ……。
 うおーい、ミケさんや。あなたどこ行っているねん。
 失礼かもと思ったけど、お屋敷の中に入った。
 
 うん?嫌な視線が復活した。どうも俺達が邪魔の様だな。
 けれど今はそれどころではない。
 
「ミケさんや、なんでお屋敷の中に入っていくんだね」
「だって、バルガスさんとお姉ちゃんが、今日はお屋敷に泊まってって言ったよ!」
「えー!」
 
 おい、ミケさんや。あなた馬車の中でバルガス様とビアンカ殿下と何を話していた。
 こっちの斜め上で物語が進んでいるぞ。

「ほほほ、そういう事ですよ。サトー殿は命の恩人。今日は泊まって行きなされ」
「サトーよ、こういった申し出は受けるが良いぞ」
「……、仰せの通りに。ビアンカ殿下、バルガス様」
「うむ。それが良かろうぞ、サトーよ」

 ゆっくり冒険者生活するはずが、三日目にして貴族のお屋敷にお泊まり。
 ああ、これは嵐の予感がする……