俺は着替えてから待っていてくれた飛龍武隊の飛龍に乗って、まずはブルーノ侯爵領へ向かう。
 今はとにかく時間が惜しい。
 はやる気持ちを抑えながら、飛龍の上から前方を見ている。
 段々とブルーノ侯爵領の街並みが見えてきた。

「分かりました、直ぐに調べます」
「お願いします。申し訳ないですが、この件は極秘案件ですので」
「サトー様も色々苦労をされていますね。何かあったら、こちらも直ぐに動ける様にしておきます。あと、このお屋敷に泊まれるようにしておきますね」

 ルキアさんに事情を話すと、直ぐに色々動いてくれた。
 ルキアさんに感謝しつつ、再び飛龍に乗ってランドルフ領へ向かう。
 ブルーノ侯爵領から近いので、直ぐに到着となる。
 お屋敷の前に着くと、ララ達が待っていた。

「「「お帰りなさい!」」」
「ただいま、怪我とかしていないか?」
「「「うん!」」」

 駆け寄ってきた三人を抱きしめてやり、頭をなでてやった。
 三人は俺のお腹に、頭をグリグリ押し付けてきた。

「はは、熱烈な歓迎じゃな」
「まあ、悪い気はしませんがね。ビアンカ殿下も留守番ありがとうございます」

 三人に抱きつかれる様子を、ビアンカ殿下に笑いながら指摘されていた。
 
「ビアンカ殿下、急ぎ話があります」
「そうじゃと思って、食堂に関係者を集めておる。ララ達も、サトーを今かと待っておったのじゃ」
「「「そうだよ! 早く行こう!」」」
「行くから、引っ張らないで」

 はしゃぐララ達に手を引かれながら、俺は急いで食堂に向かった。

「お、帰ってきたな、ライズ卿」
「軍務卿、からかっていますね」
「ははは、良いではないか。気を許している証拠だ」

 食堂に入ってきた瞬間に、軍務卿が俺の事をからかってきた。
 軍務卿の横では、息子が申し訳なさそうな目で謝罪をしている。
 このくらいなら全然問題ないから、そこまで気にしなくてもいいですよ。
 マリリさんがお茶を入れてくれた所で、緊急会議が始まった。

「サトー、父上から何と言われた? わざわざサトーだけ残すのだから、面倒なことだろう」
「そうですね、かなり面倒な事です。しかし、間違いなく国の存亡に関わります」

 アルス王子は陛下からの頼みが重要案件だと分かっていた。
 しかし俺が国の存亡に関わるといった瞬間に、一気に食堂内の空気が張り詰めた。

「サトーよ、それは一体どういう事だ」
「今から話しますが、極秘情報になりますのでむやみに喋らないで下さい」
「分かった」

 軍務卿が俺に食いついてきたが、極秘情報だと伝えたら少し落ち着いた様だ。

「ララ達もドラコも、むやみに喋っちゃ駄目だよ」
「「「「はーい」」」」

 念の為に、ララ達にも言い聞かせる。
 理解のいい子だから、分かってくれるはずだ。

「では、簡単に作戦の概要を話します。ブルーノ侯爵領北側にあるギース伯爵領。そこを人神教国から奪還することです」
「何? ギース伯爵領を奪還だと?」
「軍務卿が不審に思うのも仕方ないですが、これは事実です。ギース伯爵領内で、人神教国とワース商会が激しく動いている事が判明しました。俺らの動く名目上は調査ですが、現地の制圧も含みます」

 思ったより重大な内容に、食堂内がシーンとなる。
 国境とは別口での襲撃があるかもしれないからだ。

「軍務卿からの報告にありました人神教会の司祭の逃走ですが、逃走した地域はほぼ反乱がないと判断できます。逆に逃走がない場所は、反乱の危険性があります」
「それがギース伯爵領ってわけか」
「はい、影からも色々報告が上がっているそうです。何より人神教国と広大な森を介して接しているのが、一番のポイントになります」

 軍務卿が直ぐに色々納得してくれたので、順調に話が進んで行く。
 他のメンバーも納得しているが、エステル殿下とリンさんが心配しているのが気にかかる。

「王都から向かうと馬車で三日かかるそうですが、ブルーノ侯爵領の山道からギース伯爵領へ向かう事ができます。山道はルキアさんに調べて貰っています」
「じゃあ、ブルーノ侯爵領から向かうのだな」
「はい、しかし俺はこちらも人神教国から攻撃があると予想しています」
「成程、ギース伯爵領に応援を出させない為だな」
「なので、戦力を二分割しようと思います」
  
 アルス王子と軍務卿が納得してくれたので、このままメンバー分けを行うことに。

「アルス王子と軍務卿には国境をお願いしたいのですが、宜しいですか?」
「大丈夫だ」
「任せろ、国境は突破させん」
「シルク様もここをお願いします」
「できる限り、皆さんをお手伝いします」
「ララとリリとレイアもこちらだな。シルク様を守ってあげるんだよ」
「任せて!」
「悪いやつはやっつけるよ」
「レイアも頑張る」
「念の為に、リーフも残ってもらえるかな?」
「私も残ると、過剰戦力じゃないかなー」
「念には念を入れてだよ。本当は馬も残したい気分だよ」
「馬までいたら、それこそ過剰戦力だねー」
「念の為だよ念の為。ドラコとベリルもこっちだな」
「分かった!」
「ウオン!」

 国境はこれで大丈夫だと思う。
 ビアンカ殿下とスラタロウが作った防壁もあるし、そう簡単には破られないだろう。

「残りのメンバーでギース伯爵領へ向かう。今回は総力戦になる可能性が高い」
「それは仕方ないじゃろう。妾達としても、奴らにギース伯爵領を取られるわけにはいかんのじゃ」

 ビアンカ殿下もやる気になっている。
 今回は従魔も総動員するから、コチラもかなりの戦力のはずだ。
 と、ここでエステル殿下とリンさんが俺に話しかけてきた。

「サトー、ギース伯爵領には同級生がいるの」
「仲が良かったから、助けてあげたい」
「そうだったんですね。それはなおさら頑張らないといけないですね」

 エステル殿下とリンさんが、ギース伯爵領と聞いて心配していた理由がこれか。
 知り合いがこの状況だと、とても心配するのは仕方ない。
 
 会議が終了しそれぞれ出発の準備をしている間に、俺は残り二人のメイドさんの腕の再生をおこなった。
 下手すると数日は帰って来れないので、今のうちに治療をしておく。
 ここのところ聖魔法を大量に使っていた為か、魔法使用量が増えてきた感じがする。
 ただ、長距離ワープとかはできないんだよな。
 まだまだ魔力制御の鍛錬を積まないと。
 
 準備が終わって、俺達はブルーノ侯爵領へ向かうことに。
 今なら夕暮れには到着できるだろう。

「いってくるよ」
「「「いってらっしゃい!」」」

 リリ達に見送られながら、俺達は急ぎブルーノ侯爵領へ向かった。