「さて、会議を続けるとしよう」

 アルス王子達を見送った後、俺は陛下に閣僚と教皇と枢機卿がいる会議に引き続き参加することになった。

「今、軍務卿にどの領から人神教国の司祭が逃げてきているか確認をさせている」
「成程、司祭が逃げなかったところは反乱の危険性があるという事ですね」
「サトーは理解が早くて助かる。つまりはそういう事だ。影から情報を集めているが、今の所司祭が逃げてきた領地に問題はない」

 反乱の危険性があるところは、逆算で炙り出す事ができるのか。

「だが、反乱間違いなしの所がある。先程影から連絡があり、怪しい動きをしている所があるという」
「それって、先程エステル殿下が言っていた貴族ですか?」
「いや、奴らはこういうときは判断を誤らない。むしろ自分達の武功の為に、勇んで兵を準備する」

 空気を読めるだけに、王族としてもその貴族はやりにくいのもあるのか。
 でも反乱の危険性がないだけ、かなりマシだ。他の事に戦力を集中できる。

「人神教国の北側に森があり、我が国にもそこに接している領がある。ギース伯爵領というが、特にこれといった特徴はない。表向きは平凡な領地だな。しかし、人神教会とワース商会が動いている事が判明した」
「人神教国が、森を抜けてその領に兵力を集めている可能がありますね」
「というか、間違いないだろう。頭が痛い事に、伯爵領から王都まで馬車で三日でつく距離だ」

 魔獣中心か、はたまた兵が中心か。
 何れにせよ、問題のある領地が王都に近いのはあまり良くないな。
 王都の防衛はしなければならないが、そこから下手に戦力を削るわけにはいかない。

「周辺に、その領を止める事ができる所はありますか?」
「無いな。周囲は領地が小さい所が多く、自分の所を守るので精一杯だ」

 よりによって、小規模領地の集まっているところか。
 それでは、伯爵レベルの兵は止めようもない。

「だが奇襲を仕掛ける事はできる。ブルーノ侯爵領の山地を抜ければ、直接伯爵領に辿り着く事ができる」
「山越えをしないといけないのですね」
「かと言って、飛龍武隊では人数が少なすぎだし、街道を堂々と進軍するわけにもいかない。頭の痛い事だよ」

 うわあ、ほぼ山地の山道を強行突破するしかないのか。
 でも、他に作戦の手立てがあまりない。
 下手に街道を進軍すると、道中の小規模領地が多大な被害にあう。

「サトーに任せるしかない。かと言って国境も人員を減らしたくないので、戦力を分けるしかないだろう」
「まあ、そうなりますね。ルキアさんにお願いして、その伯爵領を抜ける道を急いで確認してもらいます」

 今直ぐに動けるのは俺らしかいないから、俺らで奇襲をかけるしかなさそうだな。
 うーん、戦力の割り振りは軍務卿とアルス王子に相談しないと。

「とりあえず戻り次第戦力を確認して、直ぐに出発します」
「作戦の成功を祈ることにする。あとは、この件は関係者以外に漏れない様に」
「分かりました」

 取り急ぎの人神教国の件は、これで終わりという。他にも話があるらしい。

「今回の事を教訓に、国防を見直すことにした。具体的には国境付近の警備の強化と、王都の城壁の拡大だ」
「しかし、国境は各領になっている所が殆どですよね?」
「なので、国からの強制査察とする予定だ。港湾都市も同じだな。これは軍主導で行う」
「俺達で行うには、荷が重いですからね」
「そこは国の責任で行うとする。王都の城壁拡張は、スラムの拡大もあるので、これも急ぎやらなくてはならない」
「そういえば、ビアンカ殿下も王都の城壁をどうにかしたいと言っていました」
「今の城壁の外に新しい防壁を作る予定だ。ビアンカの意見も聞きたいから、人神教国の件が片付いてから動く予定だ」

 首都防衛は国の根幹だし、もう少し防衛機能があってもいいだろう。
 そうすれば軍の拡張もできるし、防衛機能に余裕が出てくる。

「本当は街道を整備して流通を改善したり、王都の北にある未開地を開拓して食料事情の改善もしたい。だが一度には全てはできないのでな」
「謁見前に話をしていた事ですね」
「この辺は、落ち着いたら進めるしかない。今は難局を乗り切るのが先決だ」

 とりあえずは人神教国か。この国にきてから、ずっと迷惑な存在だったからな。
 ここで一気に叩いておきたい。
 そう思いながら会議は終了し、俺は急ぎブルーノ侯爵領へ向かうことにした。