謁見会場から控室に移動している間も、話題は先程のアルス王子とルキアさんの婚約のことだった。

「ここではなんだから、控室に入ったら話すよ」

 アルス王子のこの一言でみんな大人しくなったが、爵位の事なども色々あるし確認しないといけない。
 再び執事さんの案内で別の控室に入ったら、偉い方々が勢揃い。
 陛下に閣僚はもちろんのこと、二人の王子と思われる人もいる。
 もちろん王妃様と側室の方々も揃っている。
 更には教会の偉い人っぽい人もいて、ギルド関係と思われる人もいる。
 謁見よりも偉い人が多くない?

「おお、来たか。こっちに座るが良いぞ」
「失礼します……」

 謁見の場での威厳のある態度は何処へいったか、お菓子を食べている陛下に座るように促されたので、みんな座ることに。
 
「そういえば初めて会うメンツがいたな。内務卿と外務卿に農商務卿だ」
「初めてお目にかかります。サトーと申します」
「君が噂のサトーか。内政で是非とも手伝って欲しい物だ」
「いやいや、ここは外務でしょう。これから人神教国とのやりとりがありますし」
「農商にも欲しいですよ。農業や商業にも詳しいとの噂ですし」

 えーっと、何故か俺の取り合いになっているが、これはリップサービスだと思いたい。
 みんなニコニコしていてプレッシャーが物凄い。

「私はアルスの兄のジョージだ。王太子だが、気楽に接してほしい」
「二番目の兄であるルイだ。主に内政を担当している」
「ご紹介頂き誠に恐縮です。サトーと申します」

 閣僚同士が睨み合っている間に、アルス王子の二人の兄が挨拶をしてくれた。
 とってもハンサムなイケメンで、髪の毛の色はアルス王子と同じなんだ。
 あそこでお菓子を食べまくっている人の息子とは思えないなくらい、とてもできた息子さんだ。

「俺はギルドのグランドマスターのジャンだ。ギルドが色々迷惑をかけたな。あと普通に功績が溜まってランクアップするから、暇なときにギルドに寄るように」
「わざわざありがとうございます。お時間ある際に、ギルドに寄らせて頂きます」
「おう。ランドルフのギルドはほぼ停止状態だったが、関係者を派遣した。サトーは優秀な冒険者だから、Sランクを狙って欲しい物だ」

 歴戦の戦士って感じのギルドグランドマスターだ。
 ランドルフ領にギルドの関係者を派遣してくれるのは、とても有難い。

「私は枢機卿のパウロじゃ。サトー殿は難民への炊き出しに治療を進んでやってこられた。是非今後も続けてもらいたい」
「サトーと申します。炊き出しなどについては、可能な限りやらせて頂きます」

 教皇は忙しいので、枢機卿がここにきたらしい。
 豪華な服を着ているが、髪の毛は特にイジっている感じはない。
 見た目は白髪の優しそうなおじいちゃんだ。

「お父さん。何でお兄ちゃんとルキアちゃんの婚約が発表されて、私とサトーの婚約が発表されないの?」

 おお、このメンツでもお構いなしにエステル殿下が父親である陛下に噛み付いてきた。
 そういえば、俺とエステル殿下とリンさんの件もどうなったっけ?
 アルス王子とルキアさんの婚約のインパクトが大きくて、完全に記憶から抜けていた。

「アルスとルキアの件は、昔から決まっていたことだ。互いに成人になったし、何も問題ない」

 どうもアルス王子とルキアさんが小さい頃から婚約は決まっていたらしい。
 ルキアさんが行方不明になって一度流れたが、ルキアさんの所在がわかりこの機会を狙っていたという。
 道理でシスコンで有名なアルス王子が、ルキアさんに会って以降は自重していた訳だ。

「サトーとお前達の件はな、タヌキとハゲが頑なに反対しておってな」
「ぐぬぬ、あのタヌキとデブハゲオヤジかよ」
「未だにエステルを自分の嫡男の嫁にするのを諦めてないようだ。武勇を上げたリンも狙っている」

 どうもエステル殿下を狙っている貴族がいるらしいが、一体誰だろう。
 王族を嫁にするのだから、上位貴族ではあるのだろう。
 アルス王子が補足してくれた。

「貴族主義の侯爵と伯爵だ。どうせ直ぐに会うし、一目でわかる」
「そんなに目立つ方々なんですね」
「何せ改革反対の急先鋒だ。利権にこだわる古い貴族の代表格だ」

 成程、新興貴族に王女を嫁に出すのは反対で、歴史のある自分のところにですか。
 人神教国が必ず絡んでいるわけではないから、面倒くさい連中なんだろう。

「というわけじゃ。人神教国の件が片付いたら必ず相手になる。別に保守派が悪い訳ではないが、やつらは黒い噂も多い。独自の勢力を持っているから難敵じゃがな」

 陛下が溜息をつきながら話していた。
 人神教国が片付いたら、次の相手になるわけか。

「とはいえ、人神教国の件でサトーが功績を上げて伯爵になったら文句は言えんな。それだけ爵位にこだわっておる」
「よし、人神教国をけちょんけちょんにしてやろう」

 エステル殿下、かなり燃えていますね。リンさんも拳を握りしめている。
 とりあえずは目の前の問題の解決だな。

「陛下、ミケに男爵を与えても良かったのですか? てっきり名誉爵位かと思いました」
「サトーと同じ功績を残しているし、爵位については何も問題ない。牽制の意味もあるが、四つの領地の問題を解決したことは貴族主義の連中も評価しておる」

 成程、貴族主義の連中も評価する功績を残したからか。
 内面は何を思っているかわからないが、権力主義をうまくついたと言えよう。
 
「王都の屋敷はランドルフ家の物を与える。ミケもシルクも一緒に住むことになる」
「それは有難いのですが、複数家が一緒で問題はないでしょうか?」
「ミケとシルクはサトーの保護下に入る。同じ様なケースはあるし、何も問題ない。何より王都に屋敷が足りないのだ」

 王都に屋敷が足らないとは、一体どういうことだろう。
 その疑問には枢機卿が答えてくれた。

「簡単に申しますと、浄化が必要で住めない屋敷が多くあります」
「そんなにですか?」
「はい。通常の浄化は部屋ごとにしかできず、教会も手が足りません。しかしながら、サトー殿は一度に屋敷ごとの浄化が可能という。サトー殿に是非屋敷の浄化を手伝ってもらいたいのです」
「できる範囲ですが、お手伝いはさせて頂きます」

 浄化は魔法使っている実感があるから、嫌いではないんだよな。
 ランドルフのお屋敷も一瞬で終わったし、一日数件なら魔力も問題ない。

「内政に人神教国との外交に戦闘。王都の外壁工事にスラム対策。物流改革に農地改革か。これまた凄いな」
「北方の未開地の開拓もお願いしたいものだ」
「ギルドの納品物も良いし、これからも続けてもらいたい」
「物件の浄化で他の貴族の方に恩を売ることもできます。いやはや凄いですね」
「ははは、伯爵では収まらずに侯爵や公爵でも問題ないな」

 俺の目の前で色々なことを話し出す偉い人達。
 そんなに働いたら、俺は過労死してしまいますよ。
 巻き込まれるエステル殿下やリンさんにシルク様も、うんざりとした表情になっている。

「ミケは頑張るよ!」
「あら! ミケちゃんはやる気が凄いわね」

 王妃様と一緒にお菓子を食べていたミケが、両手を上げてやる気を見せていた。
 こうなると、俺も女性陣も断れなくなる。

 コンコン。

「失礼します。王妃様、準備が整いました」
「ちょうど良いわね。サトーさんにミケちゃん、着替えましょうね」

 ミケは、王妃様と手を繋いで控室の外に出ていく。
 もう逃げられないと覚悟して、俺も控室から移動した。