「また、ギャラリーが一杯いるよ」
強制参加になった朝の訓練に、再び沢山の人が見に来ている。
この間の人に加えて、軍務卿とヴィル様に新しい部隊の人も見ている。
あ、また飛龍が庭の片隅で小さくなって、周りには子どもが集まっている。
飛龍も、随分と子ども達と仲良くなったもんだ。
庭先では、ドラコとベリルが放たれる魔法回避の練習をしている。
「はあはあ」
「クーン」
訓練終えてへばっているドラコとベリルだけど、当初に比べて動きがだいぶ良くなっている。
と、ここで想定外の乱入者が現れた。
「サトーさん、僕も参加していいですか?」
「え? ヴィル様がこの訓練に参加ですか?」
「はい。僕も体術をかじってますので、やってみたくなりました」
「サトーやらせてやれ。ヴィルなら大丈夫じゃ」
「ははは、サトーよ我が家は武家である。多少の怪我はつきものだ」
ビアンカ殿下と軍務卿の許可もでたので、魔法回避の練習に飛び入り参加。
始まってみると、ヴィル様の動きに度肝を抜かれた。
「凄いとしか言いようがない」
「ほほほ、更に動きに磨きがかかっておるのう」
「魔法使いの習熟度が違うから、飛んでくる魔法の速度もバラバラで避けにくい。魔法使いの訓練にもなると。中々面白い訓練だな」
ヴィル様は最小の動きで飛んでくる魔法を避けていた。
それこそ、魔法が放たれる所を予知しているのではないかという精度だ。
俺とビアンカ殿下が感嘆している横で、軍務卿はこの訓練の有効性を検証していた。このあたりは流石軍務卿といった所だ。
そしてヴィル様は、涼しい顔でこちらに戻ってきた。
ドラコとベリルは、ヴィル様を羨望の眼差しで見ている。
「ふう、中々に面白い訓練ですね」
「まだ子どもの魔法使いですので。ヴィル様には簡単過ぎましたか?」
「いや、そうでもないですよ。沢山放たれる魔法から自分に当たりそうなものを見分けるのは、中々に難しいですから」
さらりとこの訓練をこなした辺り、ヴィル様は本当に体術の達人なんだろう。
あの身のこなしは、俺も直ぐには真似できないな。
次はと言うと、既に剣を抜いて俺に向けているエステル殿下が。
ニヤリと笑っている所を見ると、エステル殿下の準備は万端の様だ。
「サトー、この前のリベンジだよ」
気合十分のエステル殿下の所に、もう一つの影が。
「サトーさん。わたしも参加します」
ここでリンさんも参加。
二人とも、剣に魔法剣を抜いていて二刀流だ。
あれ? これってヤバくない?
そして更にシルから追加の一言。
「主よ、魔法は使っていいが刀はなしだぞ」
「はい? マジで?」
シルさん、この状況で刀無しは辛いんですけど。
仕方無い、練習中のあの技を使うか。
「せやー」
「はい」
エステル殿下とリンさんから繰り出される剣撃を避けていく。
エステル殿下は前回の様に焦ることなく、リンさんと互いに連携を取っている。
上手く死角をついてくる攻撃だから避けるので精一杯だけど、新技を少し試してみるか。
「はっ」
「あっ、とと」
「そこだ」
「きゃあ」
エステル殿下の攻撃が終わったタイミングで、エステル殿下に足払いを仕掛けてバランスを崩す。
横にまわりこみ、当て身で倒す。
「えい。えっ、消えた」
「せいあ」
「あっ、何で後ろから?」
リンさんが斬り込んできたので、練習中の魔法ワープでリンさんの後ろにまわりこむ。
リンさんは完全にとらえたと思ったところで目の前から俺が消えたので、かなりビックリしたようだ。
俺が背後から首筋に手刀をあてて、訓練は終了となる。
「あー、また勝てなかったよ。いつの間に体術覚えたの?」
「この二日間しか練習してませんよ。ドラコの相手役くらいですよ」
「こっちもしてやられました。空間魔法ですか?」
「はい、やっと最近使えるようになりました。まだ近距離しか使えませんが、戦闘には効果的かと思いまして」
二人とも知らない戦い方だったから、今日はかなり有効に使えた。
でも次からは警戒されるから、そううまくはいかないだろうな。
しかしドラコの相手をしていたとはいえ、剣術と組み合わせると体術も面白いな。重心を崩せば、少ない力で相手を倒すことができるし。
空間魔法は難しすぎる。ようやく近距離ワープが使えるくらいだ。長距離転移は、相当頑張らないと使いこなせない。
毎日地道に魔力制御の訓練をしていっても、長距離転移が使えるようになるには暫く先だな。
この時の俺は自分の戦い方を分析していたけど、そこに一人のバトルジャンキーが乱入してきた。
「ははは。確かに防御力はピカイチで、常に新たな戦い方を学ぶ上に試合後は冷静に自己分析か。サトーよ、儂も混ぜてくれよ」
背中に装備していたごっついロングソードを抜き、ニヤリと俺に笑いかける軍務卿。
あら? 何でこんな事になっているんだ。
俺は、何故かいつの間にか軍務卿に火をつけていたらしい。
あっという間に距離を詰めて軍務卿が切りかかってくるので、慌ててアイテムボックスから刀を出して受け止める。
うお、何という威力だよ。
「ほう、これを受け止めるか。ではこれはどうかな」
今度は嵐の様な剣撃の連続だ。
こんなのいちいち受け止めていたら次の動作ができないから、受け流すようにする。
ちくしょう、なんだよこの人は。笑いながら楽しそうに俺に剣を向けてくる。
周りからは歓声が上がっているし、完全に見世物だよ。
「ははは、これを凌ぐとはな。楽しいぞ、サトーよ」
軍務卿は更に縦横と立体的に剣技をくりだす。
今度は大振りな分だけ軌道を読みやすいが、その分当たったら洒落にならない威力だよ。
こちらもやられっぱなしでは困るから、今度はタイミングを併せてカウンターを放つようにする。
軍務卿はなおも剣撃を放ってくる。このおっさん、スタミナお化けかよ。
軍務卿とやりあってから既に十五分。更に時間がかかるかと思ったら、突然この訓練は終了した。
ビシッ。
うお、なんだこの殺気は。
殺気がこちらというか、軍務卿を貫いている。
「あなたと孫が侯爵家に訪れているからと私も来てみたのですが、何ですかこの有り様は」
「げーっ、なんでここにお前がいる」
「私がここに来て悪いのですか? それよりも、この庭の有り様は何ですか! そちらの男性はだいぶ気を使って動いてましたが、なんであなたは人様の庭を遠慮なく踏み荒らすのですか」
「いや、これは、その」
とんでもない殺気を放ったのは、どうも軍務卿の奥様らしい。
小柄で長い髪を編み込んでいて品の良いドレスをきている、いかにも大貴族の奥様って感じ。
その奥様が、般若の顔で軍務卿を睨みつけている。
奥様からの殺気と指摘により、あの軍務卿が借りてきた猫のように小さくなっている。汗を大量にかいて、顔も真っ青だ。
それもそのはず、俺はできるだけ気をつけていたけど、軍務卿は容赦なく庭の草木を踏み抜いていた。
俺等が訓練する時は、その辺はかなり気をつけていたし。
お屋敷のメイドさんやルキアさんも、途中から俺ではなくこの庭の惨状にハラハラしていたし。
殺気と怒り声によって周りの人もシーンとなり、奥様の方に注目している。
ひゅっ、ぴし。
うわ、奥様がこちらに近づいてきたと思ったら、軍務卿の首にムチを絡めていた。
俺は、奥様が放ったムチの動きが全く分からなかったよ。
「さあ、あなた。あちらで馬車を待たせております。しっかりお話しましょうね」
「ヒイィィィ」
すげー、あの奥様は体格差なんて誤差と言わんばかりに、軍務卿をそのままずりずり引きずっているよ。
首にムチが絡んだ状態の軍務卿は、なすすべなくお屋敷の前に止めてあった馬車に連れて行かれた。
そして馬車の扉が閉まったと思ったら、奥様の怒った声に軍務卿の悲鳴がこちらまで響いてきた。
周りの人は、何もなかったかのように解散した。
あっ、メイドさんが庭を直している。流石に俺も手伝わないと。
でもその前に確認と。
「ヴィル様、もしかして奥様が一番強いのですか?」
「はい、家族は誰もかないません」
「ですよね」
「我が家のしたことですので、僕も庭を直すのを手伝います」
「それでは妾も手伝うのじゃ」
俺はヴィル様とビアンカ殿下の援軍を得て、軍務卿が奥さんから解放されるまで延々と庭を直していた。
強制参加になった朝の訓練に、再び沢山の人が見に来ている。
この間の人に加えて、軍務卿とヴィル様に新しい部隊の人も見ている。
あ、また飛龍が庭の片隅で小さくなって、周りには子どもが集まっている。
飛龍も、随分と子ども達と仲良くなったもんだ。
庭先では、ドラコとベリルが放たれる魔法回避の練習をしている。
「はあはあ」
「クーン」
訓練終えてへばっているドラコとベリルだけど、当初に比べて動きがだいぶ良くなっている。
と、ここで想定外の乱入者が現れた。
「サトーさん、僕も参加していいですか?」
「え? ヴィル様がこの訓練に参加ですか?」
「はい。僕も体術をかじってますので、やってみたくなりました」
「サトーやらせてやれ。ヴィルなら大丈夫じゃ」
「ははは、サトーよ我が家は武家である。多少の怪我はつきものだ」
ビアンカ殿下と軍務卿の許可もでたので、魔法回避の練習に飛び入り参加。
始まってみると、ヴィル様の動きに度肝を抜かれた。
「凄いとしか言いようがない」
「ほほほ、更に動きに磨きがかかっておるのう」
「魔法使いの習熟度が違うから、飛んでくる魔法の速度もバラバラで避けにくい。魔法使いの訓練にもなると。中々面白い訓練だな」
ヴィル様は最小の動きで飛んでくる魔法を避けていた。
それこそ、魔法が放たれる所を予知しているのではないかという精度だ。
俺とビアンカ殿下が感嘆している横で、軍務卿はこの訓練の有効性を検証していた。このあたりは流石軍務卿といった所だ。
そしてヴィル様は、涼しい顔でこちらに戻ってきた。
ドラコとベリルは、ヴィル様を羨望の眼差しで見ている。
「ふう、中々に面白い訓練ですね」
「まだ子どもの魔法使いですので。ヴィル様には簡単過ぎましたか?」
「いや、そうでもないですよ。沢山放たれる魔法から自分に当たりそうなものを見分けるのは、中々に難しいですから」
さらりとこの訓練をこなした辺り、ヴィル様は本当に体術の達人なんだろう。
あの身のこなしは、俺も直ぐには真似できないな。
次はと言うと、既に剣を抜いて俺に向けているエステル殿下が。
ニヤリと笑っている所を見ると、エステル殿下の準備は万端の様だ。
「サトー、この前のリベンジだよ」
気合十分のエステル殿下の所に、もう一つの影が。
「サトーさん。わたしも参加します」
ここでリンさんも参加。
二人とも、剣に魔法剣を抜いていて二刀流だ。
あれ? これってヤバくない?
そして更にシルから追加の一言。
「主よ、魔法は使っていいが刀はなしだぞ」
「はい? マジで?」
シルさん、この状況で刀無しは辛いんですけど。
仕方無い、練習中のあの技を使うか。
「せやー」
「はい」
エステル殿下とリンさんから繰り出される剣撃を避けていく。
エステル殿下は前回の様に焦ることなく、リンさんと互いに連携を取っている。
上手く死角をついてくる攻撃だから避けるので精一杯だけど、新技を少し試してみるか。
「はっ」
「あっ、とと」
「そこだ」
「きゃあ」
エステル殿下の攻撃が終わったタイミングで、エステル殿下に足払いを仕掛けてバランスを崩す。
横にまわりこみ、当て身で倒す。
「えい。えっ、消えた」
「せいあ」
「あっ、何で後ろから?」
リンさんが斬り込んできたので、練習中の魔法ワープでリンさんの後ろにまわりこむ。
リンさんは完全にとらえたと思ったところで目の前から俺が消えたので、かなりビックリしたようだ。
俺が背後から首筋に手刀をあてて、訓練は終了となる。
「あー、また勝てなかったよ。いつの間に体術覚えたの?」
「この二日間しか練習してませんよ。ドラコの相手役くらいですよ」
「こっちもしてやられました。空間魔法ですか?」
「はい、やっと最近使えるようになりました。まだ近距離しか使えませんが、戦闘には効果的かと思いまして」
二人とも知らない戦い方だったから、今日はかなり有効に使えた。
でも次からは警戒されるから、そううまくはいかないだろうな。
しかしドラコの相手をしていたとはいえ、剣術と組み合わせると体術も面白いな。重心を崩せば、少ない力で相手を倒すことができるし。
空間魔法は難しすぎる。ようやく近距離ワープが使えるくらいだ。長距離転移は、相当頑張らないと使いこなせない。
毎日地道に魔力制御の訓練をしていっても、長距離転移が使えるようになるには暫く先だな。
この時の俺は自分の戦い方を分析していたけど、そこに一人のバトルジャンキーが乱入してきた。
「ははは。確かに防御力はピカイチで、常に新たな戦い方を学ぶ上に試合後は冷静に自己分析か。サトーよ、儂も混ぜてくれよ」
背中に装備していたごっついロングソードを抜き、ニヤリと俺に笑いかける軍務卿。
あら? 何でこんな事になっているんだ。
俺は、何故かいつの間にか軍務卿に火をつけていたらしい。
あっという間に距離を詰めて軍務卿が切りかかってくるので、慌ててアイテムボックスから刀を出して受け止める。
うお、何という威力だよ。
「ほう、これを受け止めるか。ではこれはどうかな」
今度は嵐の様な剣撃の連続だ。
こんなのいちいち受け止めていたら次の動作ができないから、受け流すようにする。
ちくしょう、なんだよこの人は。笑いながら楽しそうに俺に剣を向けてくる。
周りからは歓声が上がっているし、完全に見世物だよ。
「ははは、これを凌ぐとはな。楽しいぞ、サトーよ」
軍務卿は更に縦横と立体的に剣技をくりだす。
今度は大振りな分だけ軌道を読みやすいが、その分当たったら洒落にならない威力だよ。
こちらもやられっぱなしでは困るから、今度はタイミングを併せてカウンターを放つようにする。
軍務卿はなおも剣撃を放ってくる。このおっさん、スタミナお化けかよ。
軍務卿とやりあってから既に十五分。更に時間がかかるかと思ったら、突然この訓練は終了した。
ビシッ。
うお、なんだこの殺気は。
殺気がこちらというか、軍務卿を貫いている。
「あなたと孫が侯爵家に訪れているからと私も来てみたのですが、何ですかこの有り様は」
「げーっ、なんでここにお前がいる」
「私がここに来て悪いのですか? それよりも、この庭の有り様は何ですか! そちらの男性はだいぶ気を使って動いてましたが、なんであなたは人様の庭を遠慮なく踏み荒らすのですか」
「いや、これは、その」
とんでもない殺気を放ったのは、どうも軍務卿の奥様らしい。
小柄で長い髪を編み込んでいて品の良いドレスをきている、いかにも大貴族の奥様って感じ。
その奥様が、般若の顔で軍務卿を睨みつけている。
奥様からの殺気と指摘により、あの軍務卿が借りてきた猫のように小さくなっている。汗を大量にかいて、顔も真っ青だ。
それもそのはず、俺はできるだけ気をつけていたけど、軍務卿は容赦なく庭の草木を踏み抜いていた。
俺等が訓練する時は、その辺はかなり気をつけていたし。
お屋敷のメイドさんやルキアさんも、途中から俺ではなくこの庭の惨状にハラハラしていたし。
殺気と怒り声によって周りの人もシーンとなり、奥様の方に注目している。
ひゅっ、ぴし。
うわ、奥様がこちらに近づいてきたと思ったら、軍務卿の首にムチを絡めていた。
俺は、奥様が放ったムチの動きが全く分からなかったよ。
「さあ、あなた。あちらで馬車を待たせております。しっかりお話しましょうね」
「ヒイィィィ」
すげー、あの奥様は体格差なんて誤差と言わんばかりに、軍務卿をそのままずりずり引きずっているよ。
首にムチが絡んだ状態の軍務卿は、なすすべなくお屋敷の前に止めてあった馬車に連れて行かれた。
そして馬車の扉が閉まったと思ったら、奥様の怒った声に軍務卿の悲鳴がこちらまで響いてきた。
周りの人は、何もなかったかのように解散した。
あっ、メイドさんが庭を直している。流石に俺も手伝わないと。
でもその前に確認と。
「ヴィル様、もしかして奥様が一番強いのですか?」
「はい、家族は誰もかないません」
「ですよね」
「我が家のしたことですので、僕も庭を直すのを手伝います」
「それでは妾も手伝うのじゃ」
俺はヴィル様とビアンカ殿下の援軍を得て、軍務卿が奥さんから解放されるまで延々と庭を直していた。