『普通の顔で生まれたかった』何度鏡を見て考えたことだろう。
私は五百人に一人の確率で生まれると言われている口唇口蓋裂で生まれた。母はお口の病気だと幼少期、濁して伝えてくれていた。ある日病名を知りたくて興味本位で調べた私が最初に見た画像はとてもショッキングなものだった。あの唇から鼻にかけて入った痛々しい亀裂を私は忘れないだろう。その影響で私は十六年という人生の中で三回の手術を経験している。特に記憶に残っていいるのが、小学三年の夏にした一週間入院だ。手術前日の夕方、母との面会時間が終わるとき、本当は帰らないでと言いたかった。手術なんて受けたくないと泣け叫びたかった。でも迷惑をかけたくなかった私はベッドの上で、平気なふりをして母が帰る背中を見送った。その日の夜は孤独と不安に押しつぶされそうになりながら声を押し殺して泣いた。入院している最中も今も、周りの人々に対して、『私は今まで何度もつらくて痛い思いをしてきたのに、どうしてそんな思いをせずに生きているのか』と何度も何度も考えた。言ったところでどうにもならないことなのはわかっている。誰が悪いわけでもないこともわかっている。それなのに頭からその考えは離れなかった。私は強い嫉妬心と劣等感を抱いていながら、まるで容姿のことなんて気にしていないようにふるまった。
中学二年の夏、口唇口蓋裂の影響で少し曲がって潰れた鼻を馬鹿にされたことがあった。初めてコンプレックスを指摘してきたそいつはクラスも違う、話したこともない男子だった。頭を何かで殴られたような感覚だった。その直後、私の中で何かが暴れだした。『ふざけるなふざけるなふざけるな！！！！お前に何がわかる？普通に生まれてきたからって馬鹿にしやがって！』悔しかった。普通に生まれた人が羨ましかった。でもそれを認めると負けたような気がするから、泣いてしまいそうだったから私は怒った。心の中で声を張り上げ罵倒した。普通と違うというのは誰かに否定されるほど悪いことなのだろうか。
昔から周りの大人や友達に可哀そうに思われることが多い人生だった。それが善意だとしても、私は同情されている気がしてとても不快だった。でもそんなそぶりを見せられるわけもなく「心配してくれてありがとう」と笑顔で返した。そんなこと思ってもいないのに。
そんな性格の悪い自分と笑顔で人と接するときのギャップに苦しむようになり、いつしか生きていることに罪悪感を抱くようになった。
誰にも相談できなかった。言ってもわかってもらえないと思っていた。生きる意味がわからなくなった。

『死にたい』

自分の体を傷つけた十四歳の冬、私は母を泣かせてしまった。


あれから二年と少しの時間がたった。手首の傷跡は今も消えていない。だがあの日を境に私は少し前を向けた気がする。
手術の痕も心の傷もきっとなくなることはないし、嫌なことを言ってくる人も一定数いて、そのたびに傷も増えるだろう。
でもその傷を笑って話せる日が必ずくるから。今はまだ自分を好きになれなくても、いつか愛せる日が来ると信じているから。
過去の自分とあなたに伝えたい。

『生きてくれてありがとう』