「もし、石嶺さんの両親が偽物だったとして、その証拠が見つかった時はどうするの?」

「どうするって言われても……わかんない」

 他人事のように彼女は答えた。

「家から追い出すとか、警察に届けるとかはしないの?」

「そうしたいんだけどね。本物の二人がいないままそんなことしたって、仕方ないでしょ。とりあえず、家出でもしようかと思ってる。何ができるかはわからないけど、でも一緒にいたくないから」

「本物に危険が及んだりしないために?」

「それもある。どう動くのが正解なのか、見当つかないから。ひょっとしたら人間ですらなくて、幽霊とか妖怪かもしれないじゃない?」

 ふざけた口調であかりは言う。

「幽霊とか、妖怪……」

 渉は彼女の言葉を繰り返した。あるいは、あの家に巣食っている二人は人間ですらないかもしれない。

 もし本当に人間でなかったら、なおさらあの『偽物』の正体について、謎が深まるばかりだ。

 実際に石嶺夫妻の顔を見て現実感が湧いてくる一方で、渉の中にある得体の知れないものへの恐怖心が、徐々に高まっていった。


 
 結局、土曜日の調査活動は惨敗に終わった。
 
 あの後、公園での見張り当番は、渉からあかりに変更されて続行された。
 
 正午になる少し前に、父親が一人で家を出た。あかりが言うには、彼の名前は仁志(ひとし)と言った。

 仁志は駐車スペースに停まっている黒の高級車には目もくれず、徒歩で移動を開始した。当然、学生二人は待っていたとばかりに後を追った。

 仁志は近所にあるコンビニに立ち寄った後で、個人経営の古本屋に足を運んだ。どちらも、石嶺家から歩いていける距離だった。

 買い物の内容もごく普通だった。コンビニではお金をおろし、ペットボトルのお茶を二本買った。レジ袋にそれらを詰め込んで、その後の本屋では中古本を何冊か買った。

 どちらの買い物も、あまり時間はかけなかった。二箇所とも、せいぜい五分ずつくらいのものだった。

 随分と使い古されたレジ袋に購入した本を入れて外へと出てきた仁志は、それ以上の用事はないらしく、大人しく家に帰っていった。

 購入した本の内容が気になる渉を、あかりが引っ張るようにして制した。元いた公園の、最初に座ったベンチに腰を下ろすと、二人は自分たちが空腹を感じているのに気がついた。

 とっくに正午は過ぎて、昼食をとる時間だった。渉はあかりに食事に