「当たり前でしょ。協力するって約束してくれたじゃない」

「それは、そうなんだけどさ……」

 渉は周囲を見回して、不安そうな声で言った。

「ここでなくちゃダメなの? 子供がたくさんいてやりづらいんだけど」

「私だって本音を言えば嫌よ。でもこの公園がベストのポジションなの、諦めて。どうしても嫌っていうなら、お父さんとお母さんが偽物っていう証拠を持ってきてよ」

「そんな……」

 渉はわかりやすく肩を落とした。無理もないだろう。何せ、二人が作戦場所として合流したのは現在ベンチに座っているこの場所な
のだ。ここから、石嶺家を双眼鏡を使い観察する。それが、あかりの提案した作戦だった。

 渉はもちろん、あかりでさえこの作戦には若干の抵抗がある。しかし、他に有力候補となる場所が存在しないこと、そして本日の作戦に変わる妙案がなかったことが、二人をこの場所に縛り付けたのだ。

 座ったままで背後を振り向く二人。視線の一〇〇メートル先にはコンクリートづくりの家があった。無機質なその家は、暖かな陽光を浴びてもなお明るい印象を見る者に抱かせず、まるで感情を無くしたかのように存在している。

 存在感を主張しすぎることはなく、かといって気配を殺すこともなく、事務的な指示を、事務的にこなしているとでも言わんばかりだ。

 そんな建物が、石嶺あかりの家だった。あの家から、あかりは毎日学校やアルバイトに出掛けている。今朝だって、あそこにあるドアを開けて渉のいる公園までやってきたのだ。

「見張りは交代でやろう。二人して監視する必要はないよ」

 と、渉は提案した。あかりもその意見に賛成し、じゃんけんの結果渉が先に見張りを担当することになった。どのタイミングで交代するかは決めなかった。

「じゃあ、始めます」

 と、渉が言った。

「お願いします」

 と、あかりが返事を返した。

 双眼鏡を覗き込み、石嶺家が視界に収まるように調整を加えていった。

 窓からはリビングの様子が伺えて、ソファの前に置かれているテレビの画面すら確認できるほどだった。
 家主の娘が許可したからといっても、他人の家を覗き見るのはやはり気分の良くないものだった。

 渉はどんな些細な変化をも見逃すまいとして監視に入ったのだが、一〇分も経過する頃には飽き始めていた。

 家の中には、変化と呼べるものは一つもなかった。時折、あかりの両親らしい男女がリビングに姿を現すものの、目立った行動はとらない。ソファに座ってテレビを眺めるか、スマホを弄るかしている。