「なら、どうするの?」

「一つしかないわ。見張りよ」

 あかりが作戦内容を宣言した。一切ふざけている様子はなく、これが現状唯一の手段だと言わんばかりだった。

「見張り。張り込みってこと、だよね?」

「違うわよ、全然。いい? 私と呉屋くんは、私の家から少し離れた場所で待機する。ちょうど近くに公園があるから、そこで家の中
を見張るのよ。私が家にいないと思って油断したあの偽物たちは、リラックスして正体を明かすはずよ」

 果たしてそううまくことが運ぶだろうか、と渉は疑問に思った。


 あかりの両親が仮に偽物だったとして、彼女が家を空けた途端に正体を明かすものだろうか。

「そんな作戦でうまくいくのかって顔してるわね」

 と、あかりが言った。渉の胸裏は、すっかり彼女に見透かされているようだった。

「石嶺さんが留守にしただけで、石嶺さんの両親の演技をやめちゃうのかなって思ってさ」

「向こうだって必死に私を騙そうとしているのよ。だったら、私がいない時くらい休憩したいって思うはずよ」

 そもそも、どうして石嶺家に潜入したのだろう。何故あかりを騙して、生活を共にするのか。本物の両親は今どこにいるのか。

 話に出てくるだけで、まだ渉自身目撃していないその『偽物』の目的は、一体なんなのだろうか。


 翌日の土曜日、あかりの提案した作戦は実行に移された。作戦とは言っても、少し離れた公園から家の中を覗き見るというシンプルで地味なものだ。

 朝一〇時に渉は公園にやってきて、ベンチに腰を下ろした。土曜日ということもあってか、公園には小学生くらいの子供がたくさんいた。鬼ごっこやかくれんぼなどをして、自由に遊んでいる。

 公園自体は住宅街の隙間に無理やり設置したような小さなものだったので、皆意識的にボール遊びは避けている印象があった。

 すぐ横で走り回る子供達を眺めていると、あかりが公園に入ってきた。空色のリュックサックを背負い、両の手には双眼鏡を持っている。野鳥観察でもしている人みたいだ。

 あかりは渉のそばまでやってくると、ベンチに腰を下ろし、持っていた双眼鏡の一つを彼に手渡した。

「呉屋くん、ついに作戦開始よ」

 と、彼女は言った。心なしかこの日を楽しみにしているような気配があった。

「ねえ石嶺さん。本当にやるの?」