ポカンとしたままの私とカンパネルラを置いて笑顔でブルカニロさんが去っていく
言葉の意味をだんだんと理解してきた私は顔がどんどん赤くなっていることに気がついた

「え、ジョバンニ。デートってどういう……」

「ち、違うよ！今度駅舎の外も案内してくれるって話をしてて！」

必死になって私は説明する

久しぶりに会った幼馴染の前で、会ったばかりの人とデートをするなんてことを言われるなんて気まずすぎる！

やっと誤解が解けたようで

「そういうことか。ブルカニロさんも事務長みたいに人をからかって楽しむ趣味があるからなぁ。ジョバンニも気をつけたほうがいいよ」

カンパネルラはため息をつくと困ったように笑った。

「うん、わかった。なんだか個性豊かな人ばかりだね……」

そう返して私もため息をつく。今日1日の疲れがどっと押し寄せてきて、大きく伸びをした。

私たちはそれぞれ着替えると、駅舎の前に集合した。この時間は駅で働く人を送る汽車が出ているらしい。

「はい、ジョバンニ」

そう言って渡されたのは学生証くらいのカードだった。

「これは？」

「これは事務所の事務員証であると同時に、通勤退勤の時に乗る汽車の切符でもあるんだ。さっき事務長から渡すのを頼まれたんだよね」

カードは紺色と金色を基調としたシンプルながらもおしゃれなデザインで役職名と顔写真がついている。

「今日入ったばかりなのに名前も顔写真もある！いつの間に撮られたんだろう？」

「それ、僕も知らない間に撮られてたなぁ。ここにきてしばらく経つけど今だによくわからない不思議なことが結構起こるんだよね」
　
死者達が集まる駅だなんて、すごくファンタジーなところなんだし考えるてもわかるわけないか

私は考えるのをやめて、そういうものだと受け入れることにした。

「さあ、帰ろうか」

そうカンパネルラに促されて、ついていくとそこに汽車が止まっていた。
今はもう展示されているものか、一部の観光スポットでしか見かけない蒸気機関車がキラキラと輝く水面の上で止まっている。

「わあ、すごい……！蒸気機関車なんて初めて見た！」

黒い光沢を放つ車体には空の星が反射して模様のように輝いていた。

「僕も初めて見た時すごく感動したよ。本当に綺麗だよね」

すると、ピーっと汽笛が鳴った。もう発車してしまうみたいだ。カンパネルラとあわてて汽車に乗り込み、空いている席を見つけるとお互い向かい合うように座る。私は車内をぐるりと見渡した。

「中も素敵だね！」

木造の車内は綺麗に掃除されており、椅子一つ一つ丁寧に艶が出されている。椅子のクッションもふかふかで、長時間の移動も楽にできそうだ。

「そうだね。でももっと綺麗なのは出発してからだよ」

カンパネルラがそういった直接、また汽笛が鳴ってゆっくりと汽車が動き始めた。

「ほら、窓の外を見てみて」

そうカンパネルラに促されて私は外に目を向ける

「わぁ......！本当に綺麗.....」

触れられそうなほど近くに見える辺り一面の星々がまるで宝石のように輝いていた。
汽車は水面を揺らしながらどんどん出来ていく透明な線路を進む。

窓の景色に釘付けになっている私を見てカンパネルラは嬉しそうに笑った。

「喜んでもらえてよかった。ほら、小さい頃よく星の話をしていたでしょ？ずっと帆奈にこの景色を見せたかったんだ」

「うん...本当にありがとう。夜市くん」

私をジョバンニから帆奈と呼んだのに気がついて私もカンパネルラから夜市くんと呼び名を戻す
すると少し悲しそうに

「名字じゃなくて名前で呼んでよ。今までみたいに」

と夜市くんが言った。私は少し緊張しながら口を開く。

「流風...くん」

「くんも無し」

「うぅ.....流風」

「よし！改めてこれからよろしくね」

流風は笑顔で右手を差し出してくる。私はおずおずとその手を握った。

「うん、よろしく！」