更衣室で着替えると、夜市くんが事務所の案内をしてくれた。
事務所には、亡くなった人が切符を買うための待合室とそこで死因確認をして切符を売る販売員と死因解明員が仕事をする執務室、死因がわからない人の話を聞いたり、会議を行う談話室、食堂、事務員寮などなど....
外から見たよりも事務所は広かったみたいで、たくさんの部屋があった。

私はキョロキョロと周りを見る。落ち着いた雰囲気だけどどこもきれいに掃除されていたり、細かい彫刻がされていたりしている。

「案内はこんな感じかな。何か聞きたいことはある?」

夜市くんは辺りを見渡す私を見て、ふふッと笑いながらそう言った。
恥ずかしいのと久しぶりに話すのとで私は夜市くんと目を合わせられない。

「ああ、うん!案内してくれてありがとう」

私は笑ってそう返す。

そっかと夜市くんも笑う。

しーん、と沈黙が訪れる。

うー、気まずい....せっかく相棒になったのに会話が続かない.....

お互いニコニコと笑いあいながらしばらくそのままでいたけれど、私の頭の中では必死に会話のタネを探していた。

「そういえば!夜市くん.....じゃなかったカンパネルラもこの仕事をしているってことはその、死者が視えてるってことだよね?いつからこの仕事をしてるの?」

ミヤザワさんにお茶に誘われたり、案内してもらったりですっかり忘れていたけれど、私はずっとこれが聞きたかった。

「ああ、それも説明しなくちゃね。ひとまず談話室に行こうか。あそこならゆっくり話せるからね。」

こっちだよと言われて、私はカンパネルラについていく。この、カンパネラと言う呼び方も慣れない。ここの事務員は本名ではなく、与えられる《名前》で呼び合わなきゃ行けないとさっきミヤザワさんに説明された。慣れていかなきゃなと思いながら歩いていると談話室についた。



談話室には四組ずつテーブルとソファが置かれていてパーテーションでそれぞれ区切られている。依頼主(死因の解明が必要な人をそう言うらしい)も使う場所だからか、他の場所よりも部屋は豪華で綺麗だ。
今は誰も使っている人がいないみたいで私達だけだった。私達は向かい合うようにソファに座る。カンパネルラがコーヒーを入れてくれたのでありがとうと言って一口飲んだ。ブラックだけれどすっきりとして飲みやすく、思わず頬がほころぶ。あったかい飲み物を飲んだことで少し緊張がほぐれて、空気が柔らかくなったように感じた。

「えっと、いつからこの仕事をしているかだよね?ちょっとと長くなっちゃうんだけど....」

カンパネルラがそう切り出す。私は頷いて話の続きを促した。

「ジョバンニが引っ越してすぐの七夕祭りで僕は川に落ちた友達を助けようとして溺れたことあってね、友達はすぐに助け出されたんだけど、僕は流されたせいで発見が遅れて、もう死ぬんだなって思っていたらいつの間にか駅のホームに立っていたんだ。突然知らないところに来て、周りの人達に話しかけても、こんなに若いのに可哀想にとか、次はもっと長生きできますようにとかばかり言われて訳がわからなくて呆然としていたところをミヤザワさんが元の世界に帰してあげようと行って現れたんだ。この場所のこととか、しばらく話を聞いているうちにここにいるこの人達はみんな死者だってことに気がついた。その事をミヤザワさんに言ったらジョバンニと同じように強引に事務所に連れてかれてね」

苦笑しながらそう話す。

ミヤザワさんは誰に対しても強引なんだなぁ

そう思いながら話の続きに耳を傾けた。

「それからは大体ジョバンニと一緒だよ。どんどん話が進んでここで働くことになった。ほんとはすぐに誰かと組むはずなんだけど、僕と相棒になれる、《ジョバンニ》にふさわしい人がなかなか現れなくて1人で働いていたから、ジョバンニが来てくれて嬉しいよ。あと僕に嫌われたくないと思ってくれていたこともね」

カンパネルラは意地悪な笑みを浮かべる。
私は顔を真っ赤にして

「聞こえてたの!?」

と叫ぶ。恥ずかしくて顔が爆発しそうだ。
カンパネルラは笑いながら

「うん。事務長にドアの前で待機しているように言われていたからね。全部聞こえていたよ。」

ミヤザワさんめ!

ミヤザワさんはとカンパネルラが幼馴染だということを知らなかったんだから、しょうがないとは思いつつも恨めしく思ってしまう。

「でもね、嬉しさと同時に申し訳ないと思ったんだ。」

打って変わって悲しそうな顔をしてカンパネルラはそう言う。

「高校で久しぶりに君の姿を見かけたとき、すごく嬉しくて話しかけようと思ったんだ。でも、僕たちが仲が良かったのは小学生の時でもう忘れられているんじゃないかとか色々考えて、話しかけるのが急に怖くなった。クラスで君が避けられていることも知っていたのに何もしなかった。君に寂しくて辛い思いをさせてしまったのに、僕のことをそんな風に思ってくれていたなんて申し訳なくて。本当にごめん」

私は、慌てて頭を振る。

「謝らないで。私はそんなこと気にしてないし、私もみんなのことを避けていたから。私は今またこうしてカンパネルラと……ううん、夜市くんと話せることが嬉しい、一緒にお仕事ができる事が嬉しいからそれでいいんだよ」

夜市くんは泣きそうな顔をして笑った。それに私も微笑み返す。

今、心から相棒になれたそんな風に思った。