私は驚きすぎて口を開けたまましばらく動けなかった。

「ごめん。驚いたよね」

夜市くんは困ったように眉を下げながらそう言った。

「ん?君たち知り合いなのかい?」

ミヤザワさんは私達二人を見つめながら首を傾げる。

「幼馴染なんです」 

夜市くんは、ね?というように微笑みかけてくれる。
私は笑って頷く。こんなふうに夜市くんと話すのは久しぶりで、嬉しさが込み上げてくる。

「本当かい!?まさかこんな偶然があるとは。これは君たちの仕事ぶりに期待できる!」

ミヤザワさんは嬉しそうに笑った。

「相棒の顔合わせも済んだことだし、君に《名前》と制服を授けよう!」

私は首を傾げる。

「あの、《名前》ってなんですか?」

「《名前》というのは役職名のようなものでね。
事務長なら《ミヤザワ》
事務長秘書なら《ブルカニロ》
死因解明員なら《ジョバンニ》
       《カンパネルラ》
       《ザネリ》
       《マルソ》
という風にそれぞれ《名前》が決まっているのだよ。ちなみに、それ以外の役職の者は星の《名前》が与えられるんだ。」

私はふむふむと頷く。

「君の相棒になる彼は《カンパネルラ》という名だから帆奈くんには《ジョバンニ》の名を授ける。皆はこれから帆奈くんのことをジョバンニと呼ぶように。カンパネルラくんはこれから相棒として頑張ってくれたまえ!それと......」

ミヤザワさんはゴソゴソとクローゼットをあさる。

「あった、あった。いやージョバンニに相応しい人物がなかなか現れなくて久しぶりにこの制服を出すよ。」

ミヤザワさんから渡された制服は
ワイシャツに、膝上丈のズボンに、サスペンダー、編み上げショートブーツだった。

「あれ?夜市くんともブルカニロさんとも服が違う」

夜市くんは黒いスラックスにシャツとベストと靴はローファ、ブルカニロさんは黒いスラックスにシャツとベスト、その上から白衣を羽織っていて、靴は革靴だ。

「制服も《名前》によって違うのだよ。この服は《ジョバンニ》専用なんだ」

ミヤザワさんはそう教えてくれる。

「さあさあ、君たちは仕事に戻っていいよ。ジョバンニくんは更衣室で着替えた後、カンパネルラくんにこの施設を案内させよう。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「それと、ジョバンニくん。」

私は、はい?と聞き返す。

まだ何かあるのかな?

「今日の仕事終わりに、一緒に食事でもどうだい?君ともっと仲良くなりたくて」

え?今なんて.....?

返事ができないうちにに夜市くんとブルカニロさんに

「何をいってるんですか!!」

と遮られてしまった。

「ジョバンニさんは女性で未成年ですよ。事務長と二人きりで食事になど絶対にさせません!」

ブルカニロさんが頭を抱えながらそう言った。

なんで止める理由が女性ってとこと未成年ってとこなんだろう?

「ふふん、違うよ。この見た目はかわいいし、女の子たちがたくさん構ってくれるからね。一石二鳥だよ」 

ミヤザワさんは胸を張って腰に手を当てる。
今更だけれど、確かに口調は大人っぽいし、どう考えても小学生じゃないのに完全に見た目に騙されてしまった。

「ジョバンニくんも納得してくれたことだし別に食事くらいいいじゃないか」

「事務長の誘いには邪な気持ちが感じられます。大体いつもそうやって何も知らない女性方にセクハラまがいなことをしているではありませんか!最近だって女性事務員の方から苦情がきているのですよ?」

ブルカニロさんがそうまくしたてる。ミヤザワさんは面倒くさそうに

「あーあ!分かった、分かった。全くもう、ブルカニロはいつもうるさいなあ」

と大きな声で小言をかき消した。

「しょうがないから、ジョバンニくん。食事はなしにしてこれから2人でお茶でもしないかい?美味しいスイーツの店を知ってるんだ」

ぎゅっと手を握られ、見つめられる。相変わらず力が強くて全く振り解けない。

「えっと、その…」

こんな見た目で性格が好色家なんて!
私はどうしたらいいかわからずしどろもどろになってしまう。見かねたブルカニロさんが叱ろうと口を開きかけたとき

「事務長?」

そう言いながら夜市くんがミヤザワさんの肩を掴んだ。
顔は笑顔なのに目が笑っていない。それに、うっすらと額に青筋が浮かんでいる気がする。
ミヤザワさんはビクッと身体をはねさせながら私の手を離して、恐る恐る振り向く。さっきまでの笑顔はすっかり恐怖に染まっていた。

「これ以上僕の幼馴染を困らせたら許しませんよ?」

夜市くんが笑顔を崩さずにそう言った。
ミヤザワさんはすっかり怯えてしまったようで、ガタガタと震えながらはい…と弱々しく呟く。
どうやら怒らせると1番怖いのは夜市くんみたいだ。