私が小学六年生の時。お母さんが入院して間もない頃だった。お母さんはその時、生死の淵を彷徨っていた。もう、助からないかもしれない。そう言われた夜、私はお母さんの手を握りしめてずっとそばにいた。それからしばらくして、お母さんは回復した。お医者さんも奇跡的だと言っていた。
私も回復を喜んだ。けれど。

その時からだった。死者が、幽霊が視えるようになったのは。

初めは、慣れなくていつも怯えていた。そんな中、友達なんかできるわけなくて私はいつも何かに怯えているおかしな奴だった。逃げるように天河学園を受験した。

でも、うまくいかなかった。

私は人と関わるのが怖くなった。家柄を気にする人たちのせいで孤立した。それ以上に私が死者が視えるなんてことがバレてもっと孤立することが怖かった。
それでも、夜市くんがいることが、話さなくてもいてくれるだけで安心できた。
だから、私は諦めた。死者が視えるなんてことが絶対にバレないようにしてきた。

それなのに、こんな簡単にバレるなんて

「なぜなんだい?死者が視えるなんて特別なことなのに。君のその力を最大限に生かすことができるのはこの仕事だよ」

「.....私は、怖いんです。他の人と違うことで嫌な思いをしたり、みんなから避けられたりすることが。子供っぽいですよね、でも私は誰かに認めてもらえなきゃ自分を出せない。他人ありきの人間なんですよ」 

ミヤザワさんは今までとは打って変わって真剣な表情だった。

「こんなんだから、幼馴染にすら話しかけられない。仲良くしてくれていたのに、私は誰よりもその人に嫌われるのが怖い」

一番の理由はこれだ。だからもういいんだ。このままで。

「でも、人と関わりたいのだろう?」

ミヤザワさんは真剣な面持ちなままそう言った。

「ここの事務員は個性が強い物が多くてね。そのせいで、周りに馴染めなかった者もいる。でも、その子達は誰かと関わりたいと言ってこの仕事をしてくれた。これをきっかけに人と関わる勇気をまた掴もうとしたんだ」

ふっと笑顔になってまた話し始める。

「もちろん、君にその勇気が無いと言っているわけじゃ無い。自分の気持ちを押し込めたまま生きていくというのもとても勇気のある行動だ。だけれどね」

子供を想うように慈愛に満ちた表情で私を見つめる。

「どちらも勇気を出さなきゃ行けないのなら、自分の気持ちに正直な方がいいじゃないか。ここには、亡くなっているとはいえど、様々な人が集まる。人と関わるリハビリと思ってくれていい。」  

本当に大丈夫だろうか。私は人とまた関わることができるのだろうか。わからない。不安しかない。けど...

「どうする?判断するのは君だ」

ミヤザワさんは笑顔を崩さずにそう語りかける。

「私はまだ怖いです。人と関われすらしないのに、この仕事をちゃんとできる自信がない。それでも、私は誰かと話して、誰かの役に立ってそうやって生きていきたい。」

目を瞑って、深呼吸をして覚悟を決める。

「そのお仕事、やらせてください!」 

我ながらなびくのが早いと思う、人と関わらなくてもいいという決意をあっさり破ってしまったのだから。

それでもいいんだ。だって私の本心はこの意思だから。

ミヤザワさんはとびきりの笑顔になって

「ありがとう!これからよろしく頼むよ!」

と言って私の両手をぎゅっと握った。
ブルカニロさんもずっと黙っていたけれどふっと笑顔になって

「よろしくお願いします。帆奈さん」

と言ってくれた。

「いやー本当によかった!カンパネルラくん、君の相棒が決まったよ!入ってきたまえ」

そうミヤザワさんはドアに向かって声を張り上げる。

そういえはま、この仕事は誰かと一緒にやるんだっけ

優しい人がいいなーと思っているとドアが開いた。

「!」

「よろしく。帆奈」

そこには何故か悲しそうに笑う夜市流風くんがいた。