ミヤザワさんは私の手を繋いだまま、どこかへと歩き始める。ミヤザワさんがブンブンと大きく手を振るせいで私の手も勝手に振れる。

「あの!私、帰りたいんですけど、手、離してください!」

私がいくら呼びかけても、ミヤザワさんはニコニコと笑いながら、まあまあと言うだけで手を離してくれない。

ミヤザワさん、力強い!全然ほどけない!

ミヤザワさんがドアの前で急に止まった。私はすぐに止まれなくて前につんのめってしまう。

「着いたよ、新たな事務員くん!」

ん?新たな事務員?それって私のこと....?

ミヤザワさんはドアを開けると、大きな声で

「事務員諸君、喜びたまえ!新たな事務員を連れてきた!」 

事務員と呼ばれた人たちは、チラッとこっちを見てからまたかと言うようにため息をついている。

「なんだ、なんだ。もっと嬉しそうにしたまえよー!」

ミヤザワさんはぷくーっと頬を膨らませて手をブンブン振る。それと一緒に私の手も振れる。

初めて子供っぽい一面を見たな。じゃなくて!これはいったいどう言う状況?訳がわからない!とりあえず手を離して欲しい!

私の頭の中にハテナがどんどん浮かんでくる。
それに気づいたメガネをかけた男の人がやれやれと言うように

「ほら、事務長。そちらの方が手を離して欲しがっていますよ。」

と言ってミヤザワさんをたしなめる。
ミヤザワさんはおっと、すまないと言ってやっと手を離してくれた。

「うちの事務長が申し訳ありません。私は事務長の秘書をしている、ブルカニロと申します。」

ブルカニロさんは右手を胸に当ててお辞儀をした。

「月丘帆奈です」

私もお辞儀をして挨拶する。ミヤザワさんは月丘帆奈くんというのかとつぶやく。ブルカニロさんは、はぁとため息をついてから私のほうを見てニコッと笑って

「事務長がご迷惑をかけたようで申し訳ありません。月丘さんは新しい事務員ということですが....何か説明は受けておりますか?」

「いえ。この、銀河ステーション?のことは少し教えてもらったんですけど。急に、事務員とか、元の場所に帰さないことにしたとか、もうちんぷんかんぷんで....」

ブルカニロさんはやっぱりと言うようにため息をついてミヤザワさんのことを睨む。
ミヤザワさんはどこ吹く風でいやー良かった良かったとしきりに頷いている。

「では、ブルカニロくん!帆奈くんを事務長室に案内してくれたまえ!カムパネルラくんも相棒ができて喜ぶぞー!」

私は訳がわからないまま事務長室に案内された。ブルカニロさんは謝りながら

「事務長はこうなってしまったら全く聞く耳を持ってくれません。申し訳ありませんが、もう少しお付き合いください」

とこっそり耳打ちしてくれた。
よく見るととても整った顔立ちをしていて、背も高い。
最近、人と話す機会が全然なかった私はイケメンに顔を近づけられたことに顔を赤くして少しのけぞってしまった。
ブルカニロさんはおかしそうに、ふふッと笑った。

「えー、では説明しよう」

ミヤザワさんは大きな椅子に座って腕を組む。
私はその正面の椅子に座ってミヤザワさんに目を向けた。

なんか、もうどうにでもなっちゃえー

ブルカニロさんに言われた通り、きっと今のミヤザワさんには通じないから黙って話を聞くことにした。

「まず、ここの仕事について説明しよう。一つは亡くなった人に銀河鉄道の切符を販売すること。もう一つは、死因の解明だ。」

「切符の販売と死因の解明?」

「そう。知っての通り、ここには人間としての生を終えた者たちが集まる。その者たちは自分の死因と引き換えに銀河鉄道の切符を買って、星になるため場所へと向かうんだが、その切符をここて販売する。しかし稀に自分がなぜ死んだのかわからない者が現れるんだ。」

ミヤザワさんはあごの下で手を組む。

「その者の死因を解明する仕事をぜひ君に、銀河鉄道切符販売事務所に入ってやってもらいたい。」

この上ない笑顔でミヤザワさんはこっちを見る。

いやいや、なんとなくこの場所のことはわかったけど!仕事をやってもらいたいって言われても....!

私はブルカニロさんを見る。すごく申し訳なさそうな顔をしてため息をついている。

「事務長、月丘さんが困っていますよ。ちゃんと話を聞いてあげてください。」

わかっているよとでもいいたげにむすっとした顔でブルカニロさんを一瞥して私の方に向き直る。

「質問でもなんでも聞いてくれ。」 

そうにこやかにミヤザワさんは言った。
私はおずおずと口を開く。

「あの、なんで私なんですか?その仕事、もっと他にぴったりの人がいると思うんですけど」

ミヤザワさんはキョトンとした顔で

「なぜって....帆奈くん。君、()()()()()じゃないか」

一気に血の気が引いていく感覚がした。

「視えているって.....なんのこと....」

「?」

ミヤザワさんは不思議そうに

「そんなの、死者に決まっているだろう?」

私は目の前が真っ暗になる気がした。

ああ、バレていたんだ。ずっと。

「この駅のホームにたくさんいたじゃないか死者が。最初、君を見たときどうしてフラフラ歩いているのか不思議だったけれど、君に触れて確信した。君はホームで死者たちにぶつからないよう歩いていたんだろう?」 

私は何も言えずに俯く。

「この死因の解明の仕事には死者が見えることが第一の条件。この上ないほど、君にピッタリじゃないか。だから私は君をここに連れてきたんだよ!」

服の裾をぎゅっと握りしめる。力が入りすぎて、手のひらが真っ白だった。

「私はその仕事はやりません」