談話室に着いてしばらくソファに座っていると男の人が事務員に案内されて入ってきた。どうやらこの人が依頼主のようだ。辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いているところを見るとどうやらここにきてまだ間もないらしい。カンパネルラが立ち上がったのに習って私も一緒に立ち上がる。

「お待ちしていました。どうぞこちらにおかけください」

カンパネルラがそう言って向かいのソファを指す。依頼主の人は私たちを見て少し驚きながらゆっくりと腰掛けた。私たちももう一度ソファに座り直す。

「初めまして。これから依頼主様の死因調査を行うカンパネルラです」

「お、同じくジョバンニです!」

頭を下げながら自己紹介をする。緊張からか少し言葉に詰まってしまった。

「君たちが?まだ高校生くらいにしか見えないが………」

そういぶかしげに依頼主さんは私たちを見る。
 
「確かに僕たちは高校生ですが、僕は何度もこの仕事をして経験を積んでいますし、ジョバンニも新人ですがご期待に添える仕事ぶりが望めるかと」

カンパネルラはにっこり笑ってそう言った。急にハードルを上げられて冷や汗が流れる。品定めするかのように私たちを見る依頼主さんに私は苦笑いを浮かべた。

「まあ、ここはあの世なんだから常識なんて考えるだけ無駄か」

そう依頼主さんはため息をつきながら言った。

「ではまず、お名前とご年齢、亡くなられる時までしていたご職業をお願いします」

カンパネルラがそう言ってメモ帳を出した。私ももらったメモ帳と万年筆を取り出すと、どんな言葉も漏らすまいと気合を入れて耳を傾ける。

「ああ。名前は新島圭史(にいじまけいし)。年齢は……確か56だったかな?職業は大学で教授をしていた」

「なるほど、新島様ですね。それでは亡くなった時に一番近い記憶を教えてください」

「様はやめてくれ!なんだかむず痒い。……別に変わったことはしていない。朝起きて家を出て職場へ向かっている途中だったと思うんだが………」

そういうと視線を彷徨わせながら黙り込んでしまった。
どうしたのだろうと私が声をかけようとした時、新島さんはガバッと顔を上げて大きなため息をついた。

「やっぱり思い出せない。死ぬしばらく前からの記憶がすっぽり抜けていて思い出せないんだ。死んだってことはなんとなくわかるのに、死因がわからないなんて変な気分だな」

そう乾いた笑い声をあげて天井を見上げる。
私は何も言えずに口を噤んだ。

「大丈夫です。必ず僕たちが死因を見つけてみせますから」

そう言ってカンパネルラは真っ直ぐに新島さんを見つめる。新島さんは少しホッとしたように頬を緩ませて少しだけ口の端を上げた。

「ああ。よろしく頼むよ」