事務所に着いて、お互い着替えるとまず執務室へ向かった。依頼主が来るまでまだしばらく時間があるらしく、先に私の仕事机の整理を行うためだ。
基本的に書類仕事などはそこでおこなうようで、事務員一人一人に専用の机が当てられると、カンパネルラが教えてくれた。
自分の机なんて嬉しいなぁ
そんなことを思ってワクワクしながら執務室の扉に手を伸ばしたとき、バン!という音と共に勢いよく扉が開いた。
「きゃっ!」
「わあ!」
扉を開けた人影が小さく悲鳴を上げる。
私は迫り来る扉を避けようとして思いっきりのけぞると、バランスを崩して尻もちをついてしまった。
「ジョバンニ!大丈夫?」
カンパネルラが心配そうな顔で手を差し伸べてくれる。私はその手を掴んでゆっくりと立ち上がった。
「いてて……うん、大丈夫」
部屋から出てきたのはツインテールの女の子で私とカンパネルラを交互に見ながら、最後に私を睨むとフンッと鼻を鳴らして行ってしまった。それに続いて緑のチョッキを着た男の子が出てきて
「ったく……あのお嬢は。ごめんな、大丈夫だったか?」
と困ったように言った。
「あ、うん。全然大丈夫……」
段々と声が小さくなりながらそう答える。男の子は本当にごめんなと謝りながら、女の子を追いかけていった。
「あの二人はザネリとマルソだね。僕たちと同じ死因を解明する事務員なんだよ」
「ヘえ!なら、自己紹介できればよかったんだけど.....仲良くなれるな?」
でもさっきの女の子、私のこと睨んでたよなぁ
二人とも私たちと同じくらいの年齢のようだけど同年代であればある程話すのに緊張するし
私は二人が去っていった方を見つめる。
「うーん………あの二人も少し難しいところがあるからなあ。すぐには無理かもしれないけど、仲間なんだしだんだん話せるようになっていくよ。とりあえず今は中に入ろうか」
私は頷きながらカンパネルラと一緒に執務室に入った。
中は綺麗に掃除されていて、ステンドグラスの窓が月明かりにキラキラと照らされている。机は向かい合わせにきれいに並んでおり、忙しなく書類を整備している人がいた。その一角でため息をつきながら床に散らばっている書類を拾うブルカニロさんがいた。
「ブルカニロさん。手伝います」
カンパネルラはそう話しかけると、一緒に書類を拾いはじめた。私も昨日のことがまだ少し恥ずかしいけれど手伝わないのもなんだか変な気がして少しドギマギしながら拾い集める。
「カンパネルラ君にジョバンニさん、ありがとうございます」
全てまとめ終えると紙を揃えながらブルカニロさんがそう言った。
「ブルカニロさんが書類を落とすなんて珍しいですね。少し働きすぎなのでは?」
カンパネルラが心配そうにそう言った。ブルカニロさんは困ったように笑う。
「お気遣いありがとうございます、カンパネルラ君。ですがこの書類を落としたのは私ではなくてですね、ザネリさんが……」
そう言うと、口をつぐんでしまった。
ザネリって同じ死因解明の事務員の子だよね。何かあったのかな?
そう思ったと同時にカンパネルラが口を開く。
「何かあったんですか?」
「たいしたことではないのですが、少々トラブルがありまして。まあ、いつものことです」
そう言うとこの話は終わりというようにブルカニロさんが手を打った。私たちもそれ以上は何も聞かなかった。
「こちらから呼び出しておいてちゃんと準備ができておらず申し訳ありません。ジョバンニさんの机はこちらです」
ブルカニロさんが一番端の机を手で指す。机には引き出しと本置きがついていて、ランプの中の蝋燭の灯りが机を明るく照らしていた。ワインレッドのクッションがついている椅子は柔らかくて銀河鉄道の座面みたいにいくらでも座っていられそうだ。
「それとこちらのメモ帳と万年筆を支給します。書き留めておくことが必要な場面がたくさんありますから常に携帯しておくように」
「分かりました。ありがとうございます!大切にします!」
「喜んでいただけて何よりです。次にこれは書類制作のマニュアルになります。書類を作るのはまだ先になると思いますが持っていてください。わからないことがあればその都度聞いてくださいね」
そう言って先ほど拾い集めた書類を渡される。いつの間にか、書類が紐でまとめられているうえに、表紙までついていた。
「床に落としてしまったもので申し訳ありません。マニュアルのストックがこれしかないもので」
「全然大丈夫です。早く覚えられるように頑張ります!」
「僕の机は隣だから初めての書類制作の時はマニュアルと一緒に説明するね」
カンパネルラが自分の机をトントンと叩きながらそう言った。支給されたものや元々引き出しに入っていたものなどを整理し終わった頃、ブルカニロさんが咳払いをすると
「皆さん!仕事中に申し訳ありませんが、少し注目してください!」
そう声を張り上げた。いったい何が始まるのかと私はカンパネルラに目配せをする。カンパネルラは微笑んだまま何も言わなかった。
「えー、昨日居た方はご存知かと思いますが、新たな事務員のジョバンニさんです」
そう急に紹介されて、私は訳がわからないままお辞儀をする。
「彼女は《ジョバンニ》として選ばれ、カンパネルラ君と相棒となり仕事をしていきます。新たな仲間として迎え入れ、これからも仕事を頑張っていきましょう」
事務員の人たちがよろしくと言いながら拍手をしてくれる。
そんな話をしていると依頼主が来る時間まであと少しになっていた。
「そろそろ談話室に行こうか」
カンパネルラが時計を見ながらそう言った。
「そうだね。緊張してきた……」
自分の胸に手を当てると心音が速くなっている。それを見ていたブルカニロさんが
「ああ、ジョバンニさんの初めての仕事がこれからあるんでしたね。カンパネルラ君も一緒ですし、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
そう言って小さく笑った。私は小さく深呼吸をしてどくどくと脈打つ心臓を落ち着かせる。
「ありがとうございます。頑張ってきます!」
カンパネルラと一緒に執務室から出ると、談話室へ歩き出した。
基本的に書類仕事などはそこでおこなうようで、事務員一人一人に専用の机が当てられると、カンパネルラが教えてくれた。
自分の机なんて嬉しいなぁ
そんなことを思ってワクワクしながら執務室の扉に手を伸ばしたとき、バン!という音と共に勢いよく扉が開いた。
「きゃっ!」
「わあ!」
扉を開けた人影が小さく悲鳴を上げる。
私は迫り来る扉を避けようとして思いっきりのけぞると、バランスを崩して尻もちをついてしまった。
「ジョバンニ!大丈夫?」
カンパネルラが心配そうな顔で手を差し伸べてくれる。私はその手を掴んでゆっくりと立ち上がった。
「いてて……うん、大丈夫」
部屋から出てきたのはツインテールの女の子で私とカンパネルラを交互に見ながら、最後に私を睨むとフンッと鼻を鳴らして行ってしまった。それに続いて緑のチョッキを着た男の子が出てきて
「ったく……あのお嬢は。ごめんな、大丈夫だったか?」
と困ったように言った。
「あ、うん。全然大丈夫……」
段々と声が小さくなりながらそう答える。男の子は本当にごめんなと謝りながら、女の子を追いかけていった。
「あの二人はザネリとマルソだね。僕たちと同じ死因を解明する事務員なんだよ」
「ヘえ!なら、自己紹介できればよかったんだけど.....仲良くなれるな?」
でもさっきの女の子、私のこと睨んでたよなぁ
二人とも私たちと同じくらいの年齢のようだけど同年代であればある程話すのに緊張するし
私は二人が去っていった方を見つめる。
「うーん………あの二人も少し難しいところがあるからなあ。すぐには無理かもしれないけど、仲間なんだしだんだん話せるようになっていくよ。とりあえず今は中に入ろうか」
私は頷きながらカンパネルラと一緒に執務室に入った。
中は綺麗に掃除されていて、ステンドグラスの窓が月明かりにキラキラと照らされている。机は向かい合わせにきれいに並んでおり、忙しなく書類を整備している人がいた。その一角でため息をつきながら床に散らばっている書類を拾うブルカニロさんがいた。
「ブルカニロさん。手伝います」
カンパネルラはそう話しかけると、一緒に書類を拾いはじめた。私も昨日のことがまだ少し恥ずかしいけれど手伝わないのもなんだか変な気がして少しドギマギしながら拾い集める。
「カンパネルラ君にジョバンニさん、ありがとうございます」
全てまとめ終えると紙を揃えながらブルカニロさんがそう言った。
「ブルカニロさんが書類を落とすなんて珍しいですね。少し働きすぎなのでは?」
カンパネルラが心配そうにそう言った。ブルカニロさんは困ったように笑う。
「お気遣いありがとうございます、カンパネルラ君。ですがこの書類を落としたのは私ではなくてですね、ザネリさんが……」
そう言うと、口をつぐんでしまった。
ザネリって同じ死因解明の事務員の子だよね。何かあったのかな?
そう思ったと同時にカンパネルラが口を開く。
「何かあったんですか?」
「たいしたことではないのですが、少々トラブルがありまして。まあ、いつものことです」
そう言うとこの話は終わりというようにブルカニロさんが手を打った。私たちもそれ以上は何も聞かなかった。
「こちらから呼び出しておいてちゃんと準備ができておらず申し訳ありません。ジョバンニさんの机はこちらです」
ブルカニロさんが一番端の机を手で指す。机には引き出しと本置きがついていて、ランプの中の蝋燭の灯りが机を明るく照らしていた。ワインレッドのクッションがついている椅子は柔らかくて銀河鉄道の座面みたいにいくらでも座っていられそうだ。
「それとこちらのメモ帳と万年筆を支給します。書き留めておくことが必要な場面がたくさんありますから常に携帯しておくように」
「分かりました。ありがとうございます!大切にします!」
「喜んでいただけて何よりです。次にこれは書類制作のマニュアルになります。書類を作るのはまだ先になると思いますが持っていてください。わからないことがあればその都度聞いてくださいね」
そう言って先ほど拾い集めた書類を渡される。いつの間にか、書類が紐でまとめられているうえに、表紙までついていた。
「床に落としてしまったもので申し訳ありません。マニュアルのストックがこれしかないもので」
「全然大丈夫です。早く覚えられるように頑張ります!」
「僕の机は隣だから初めての書類制作の時はマニュアルと一緒に説明するね」
カンパネルラが自分の机をトントンと叩きながらそう言った。支給されたものや元々引き出しに入っていたものなどを整理し終わった頃、ブルカニロさんが咳払いをすると
「皆さん!仕事中に申し訳ありませんが、少し注目してください!」
そう声を張り上げた。いったい何が始まるのかと私はカンパネルラに目配せをする。カンパネルラは微笑んだまま何も言わなかった。
「えー、昨日居た方はご存知かと思いますが、新たな事務員のジョバンニさんです」
そう急に紹介されて、私は訳がわからないままお辞儀をする。
「彼女は《ジョバンニ》として選ばれ、カンパネルラ君と相棒となり仕事をしていきます。新たな仲間として迎え入れ、これからも仕事を頑張っていきましょう」
事務員の人たちがよろしくと言いながら拍手をしてくれる。
そんな話をしていると依頼主が来る時間まであと少しになっていた。
「そろそろ談話室に行こうか」
カンパネルラが時計を見ながらそう言った。
「そうだね。緊張してきた……」
自分の胸に手を当てると心音が速くなっている。それを見ていたブルカニロさんが
「ああ、ジョバンニさんの初めての仕事がこれからあるんでしたね。カンパネルラ君も一緒ですし、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
そう言って小さく笑った。私は小さく深呼吸をしてどくどくと脈打つ心臓を落ち着かせる。
「ありがとうございます。頑張ってきます!」
カンパネルラと一緒に執務室から出ると、談話室へ歩き出した。

