校門に着くと流風は私に気づいて手を振っていた。
小さく返して私は小走りで駆け寄る。

「学校お疲れさま。さあ、行こうか」

ニコッと笑って流風は歩き出す。チラチラとこっちを見てくる視線に怯えながら私は流風の隣に並んで歩いた。
しばらく他愛もない話をしていると流風が不意に

「ねぇ、帆奈。今日僕のこと避けてたでしょ」

と、とてもきれいな笑顔で言った。

あー、バレてたか.....

私は言葉に詰まりながらも観念して謝る。

「うぅ、ごめん。話しかけてくれるのとっても嬉しいんだけど、周りの視線がどうも気になって.....」

「そっか。久しぶりに幼馴染に会えて僕も嬉しくなってやりすぎちゃったかな?」

少し恥ずかしそうに流風は話す。私と話すことを嬉しく思ってくれたことが私は嬉しかった。

「でも、避けられたのは悲しかったなー。クラスのみんなのことだってあんまり深く考えないでほしいな」

イタズラっぽく笑ってそう話す流風は楽しそうだ。
流風みたいにクラスメイトの注目をいつも集めていれば、これくらいの注目なんて何のこともないのかもしれないが、私はやっぱりなれないなと思った。

でも、流風ともっと学校で話せるようになればクラスに別の友達もできるかも

そんなふうに思ったけれど、私に友達ができるなんてきっとまだまだ先のことだ。もっと人と話すことに慣れるためにも仕事を頑張ろうと思う。

「ついたよ、よだか駅。この時間ならきっとヨダカさんいると思うな」

「やっぱり外観はおどろおどろしいね。中みたいに綺麗にはしないのかな?」

「外観はヨダカさんや僕たち銀河ステーションで働く人の力は及ばないんだよ。なんていうのかな....駅の中は銀河ステーションと同じ世界で、外は三次空間になってるって感じかな?」

「つまり、見た目は人間の世界にある普通の駅でも、中は別世界に繋がっていて別世界の人も人間の世界の人も自分の世界にしか干渉できないってこと?」 

「そう!銀河ステーションと同じ世界に入れるのも社員証を持っている人か、その人と一緒にいる人しかいないからね。普通の人が中に入っても外観と同じ荒れた舎内にしか入れないんだ」

そう言いながら駅舎のドアを開けると、昨日の夜と同じ温かくきれいな部屋が広がっていた。

「ヨダカさーん!居ますか?」

改札口に向かいながら流風は声を張り上げる。すると、窓口の奥からガサガサっという音が聞こえてきた。

「はいっ!カンパネルラさんですね。私はここに……うひっ!?」

学ランのような服に黒いマントを着て帽子を目深く被った背の高い男の人が窓口からひょこっと体を出してすぐに引っ込んだ。

「カ、カンパネルラさん!その、その隣の女性は一体どちら様で……?」

顔だけを覗かせながらとても小さい声で男の人はそう呟く。前髪で目が隠れているせいで、目線がどちらに向いているのか分からないがとても警戒されていることだけはわかった。

「彼女は僕の幼馴染で相棒のジョバンニだよ。ヨダカさん」

「初めまして、よろしくお願いします」

窓口の方の私は頭を下げて挨拶する。

「ジョバンニ?ああ!昨日新しく事務員登録された方ですね」

やっと警戒を解いてくれたのかゆっくりと立ち上がって窓口から出てくる。

「初めまして、ジョバンニさん。小生は……ここの駅長のヨダカです…」

ヨダカさんは大きな体に似つかわず、ビクビクと怯えた風に右手を差し出した。

「ヨダカさんは人見知りなんだ」

流風が小声でそう伝えてくれる。私は少し親近感を覚えながらヨダカさんの右手をとった。
大きくてゴツゴツとした男の人の手という感じのするヨダカさんの手は、駅の中と同じように温かく優しかった。

人見知りなのに初対面の私に握手を求めてくれるなんて可愛らしい人だな

そんなことを思いながら思わず微笑んでいると、ヨダカさんが私の手を握り続けたままこっちを見つめていることに気がついた。心なしか耳が赤い気がする。

「えっと…ヨダカさん?」

どうしたのかと思いそう尋ねるとヨダカさんはハッとして手を離した。

「も、申し訳ありません!少々、見惚れ.....いえ!ぼーっとしてしまって……!」

あたふたとしながら窓口に戻ると咳払いをして

「事務員証の提示をお願いします。10分後に汽車が到着しますのでホームにてお待ちください」

ヨダカさんはそう言った。
流風は口を覆って笑いながらヨダカさんを見ている。
流風と目が合うと、ヨダカさんはますます顔を赤くした。

「カンパネルラさん!さぁ、早く事務員証を見せてください!ジョバンニさんも、お願いします」

流風は笑ったまま事務員証を見せるとホームに進む。
流風に続いて私も事務員証を見せる。

「お仕事、が、頑張ってください!」

ヨダカさんは恥ずかしそうにそう私に言った。

「はい!ありがとうございます。ヨダカさんもお仕事頑張ってくださいね」

人見知りながら初対面の私を応援してくれるヨダカさんに感激しながら私はホームに進む。少し振り返るとヨダカさんがこっちを見ていたので小さく手を振った。ヨダカさんは振り返すと、すぐ窓口に引っ込んでしまった。
ホームに行くと流風はまだ笑っていた。

「ねぇ、なんでそんなに笑ってるの?」

「ふふっ。そういうとこが面白くて」

意味がわからず首を傾げる私を見て、流風は最後にひと笑いすると

「本当に鈍感なんだから」

と伸びをして呟いた。

「ん?どういうこと?」 

そう聞くと同時に汽車がホームについた。流風は乗り込みながら

「さあ?もっと人と関わっていくうちにわかるかもね」

そうイタズラっぽく笑った。