「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何か知っていますか」

地学の授業中、先生がそう尋ねた。
小学生でもわかるような簡単な質問をわざわざするのは、眠気がピークに差し掛かる昼休み後の授業に集中してもらうためだろうか。

窓から外を眺めていた私は教室を見渡す。みんな眠そうでうつらうつらしている人もいれば、力尽きて机に突っ伏している人もいる。
そんな中、一番前の席に座る夜市 流風(よいち るか)くんはいち早く手を挙げた。それにつられて真面目に取り組んでいた人達が手を挙げる。
私、月丘 帆奈(つきおか はんな)も手を挙げようとして引っ込めた。

私が当てられて目立つのは嫌だ

ここは中高一貫天河学園(あまかわがくえん)
お金持ちの人が通うエリート校だ。大体の人が中学受験をしてそのまま高校に進学する人が多い中、私は高校受験をしてこの学校に入った。高校受験組はいないわけではないが、圧倒的に人が少ない。それもあってかお金持ちでもなく、学力だけで入った私は家柄を気にする一部の人達からあまりよく思われていなかった。
今の時代、そんなこととは思うけれど実際に起きていることだ。

しょうがない

それに、私自身もみんなと距離を置くようにしているため、いじめなどの行動は起こされなくともなんとなく私は孤立していた。

友達は欲しいし、女子高生らしい青春なんかもしたかったけど、クラスに居場所がなくなるよりはマシだよね

また窓の外に目を向けようとして

「では、月丘さん」

先生に当てられてしまった。私はひとまず立ち上がる。

どうしよう。当てられた…手、挙げてないのに!
えっと、あれは星だよね。絶対にそう、間違いない。けど…

言葉が喉につっかえて出てこない。ちゃんと手を挙げていた人達が私をじっと見つめている。

「大きな望遠鏡で銀河をよく調べると銀河は大体なんでしょう。」

やっぱりあってる。でも、みんなに見られているせいか声が出ない。

先生は困った様子で夜市くんに向き直った。

「では、夜市さん」

夜市くんは当てられて立ち上がる。
けれど答えない。困ったように俯くだけだ。

先生はふうと息をつくと

「では、よし。2人とも座りなさい。」

そう言われて私は腰を下ろす。
分かっていたけど答えられなかった。目立つのが怖かった。 
結果、黙ったせいでより目立ってしまったけれど。
夜市くんが黙ったのは、自分が黙ることでみんなの注目を自分に向けるためだろう。
現に、クラスではあの成績学年一位の夜市がこの問題を答えなかったというざわめきが起こっている。
先生はその場を治めるように授業を続けた。

「このぼんやりと白い銀河を大きな望遠鏡で見ますと…」

私は夜市くんの背中を見つめながら

変わってないな

と思った。