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 弾かれたように飛び起きた。
 どくどくと音を立てている胸に手を当てて、深呼吸を繰り返しながら恐る恐る周囲に目を配る。
 視界は暗く、聴覚は静けさを拾うのみだった。今の今まで目に映っていた場所ではない。四角い空間であることは変わりないけれど、教室よりもずっと狭かった。周囲には誰もいないし、もちろん誰の声も聞こえてこない。
 そこでやっと、夢だったのだと気づいた。

 サイドテーブルに置いてあるデジタル時計のわずかな明かりが、ぼんやりと室内を照らす。六畳ほどの空間にデスクと本棚だけが置かれている、殺風景と言ってもいいくらいシンプルな部屋。
 息が整うにつれて落ち着きを取り戻し、ここがどこなのか、そしてなぜここにいるのかを徐々に思い出す。
 ここは三日前から居候している、叔母さん──お母さんの妹である亜実(あみ)ちゃんの家。私の高校は二学期制だから、九月の終わりから十月の始まりにかけて一週間ほどの秋休みがある。その期間だけ泊まらせてもらうことになっていた。

 ──亜実がね、うちに遊びに来ないかって。どうする?

 一週間前お母さんにそう言われたとき、私は迷わず頷いた。
 お母さんは、ほっとした顔をしていた。

 デジタル時計を確認すると、時刻は三時になるところだった。またこんな時間に目覚めてしまった。しかも、すっかり眠気が吹き飛んでいる。またあの夢を見るかもしれないという恐怖も相まって、二度寝はできそうにない。
 Tシャツは汗でびっしょりと濡れていた。布が肌にまとわりつく不快感が、まるで私を再び悪夢に引きずり込もうとしているみたいだった。一刻も早くその感覚から解放されたくて、着替えるため間接照明をつけてキャリーバッグを漁った。

茉優(まゆ)? 起きてるの?」

 控えめな音を立ててドアがゆっくりと開き、亜実ちゃんが顔を覗かせた。
 時計と亜実ちゃんの顔を交互に見て、まさか昼の三時かと一瞬混乱する。だけどそれにしては室内が暗すぎるし、間違いなく深夜の三時だ。

「うん、ちょっと、暑くて目が覚めちゃって」

 言ってすぐに、嘘っぽかったかなと焦りが湧いた。日中はまだ夏の名残があるものの、十月ともなれば夜はそこそこ冷える。少なくとも寝汗を掻くような気温ではない。
 慌てて「亜実ちゃんは?」とつけ足した。

「喉渇いたから水飲みにリビング来たら、部屋の電気ついてたから」

 亜実ちゃんはそう言って、ドアを開けっぱなしにしたまま部屋から出ていった。一分と経たずに戻ってくると、両手に水が入ったグラスを持っていた。
 ん、と片方を私に差し出す。喉が渇いている自覚はなかったのに、手渡された水を一気に飲み干した。渇きは満たされたけれど、すでに冴えていた頭が余計に覚醒してしまった気がする。

「ありがとう」
「どういたしまして。……ねえ、茉優」
「なに?」

 亜実ちゃんは薄く唇を開いた。
 だけど言葉を発さず、やがて微笑んだ。

「暑かったらエアコンつけていいからね」
「あ、うん、わかった」
「じゃあ、おやすみ」

 どうやら嘘だとばれなかったようだ。
 亜実ちゃんは空いたグラスを私の手から抜き取って、部屋から出ていった。