なんか、いつも、気づいたらひとりだった。

 中学校に入ってすぐ、シノという女の子と出会った。席が隣だったことがきっかけで話すようになり、自然と仲よくなっていった。

「ねえ、どこ行ってたの?」

 休み時間にトイレへ行って教室へ戻ると、シノが顔をしかめて駆け寄ってきた。

「トイレ行ってた」
「なんでひとりで行っちゃうの? あたしも誘ってよ」

 仲が深まるにつれて、こういうことを言われるようになっていた。
 シノはすごく甘えん坊で、休み時間も昼休みも教室移動も常に私と行動したがる。反して私は、行きたいと思ったタイミングで近くにシノがいなければ、ひとりでふらりと行ってしまうのだ。
 茉優はマイペースすぎるんだよ、とよく言われていたけれど、どうしてシノが怒るのかいまいちわからなかった。今だってただトイレに行くだけなのだから、わざわざ友達を誘うまでもない。
 返答に困っていると、シノは「あとさあ」と続けた。

「あの子たちとなに話してたの? すごい楽しそうだったけど」

 私と一緒にトイレから戻ってきた女の子たちを、シノが目線で示す。

「五時間目の英語で小テストやるみたいだって話してただけだよ」
「ふーん……そうなんだ。でも、あんまりあの子たちと喋ったりしない方がいいと思う」
「……なんで?」
「けっこうみんなに嫌われてるんだよ。あたしも嫌いだな。だってうるさくない? 休み時間のたびにぎゃあぎゃあ騒いでさあ。男の話ばっかりしてるし、モテ自慢かよって感じ。馬鹿っぽいし普通に引くって」

 シノが誰かの悪口を言うのは初めてではない。
 正直に言えば、こういうところは得意ではなかった。
 誰かを嫌ったり悪口を言うこと自体を咎めたいわけじゃない。引っかかっているのは、頻度が多すぎることと標的が無差別すぎることだ。

 なぜただ同じ教室にいるだけで特に関わりのない相手がそんなに気になるのかがわからなかった。べつに彼女たちが私たちになにかしてきたわけでも言ってきたわけでもないのに。
 確かに彼女たちは明るくて目立つタイプだから、いつも教室の中心にいる。彼氏ができたとか別れたとか話しているのを耳にしたこともある。だけど、それがなんだというのだ。

「そうなんだ。でも私はうるさいって思ったことないし、嫌いじゃないから喋るよ。それに私たちだって騒いじゃうときもあるだろうし」

 チャイムが鳴り、話は強制終了となった。
 口をつぐんで自席へ戻ったシノがどんな顔をしていたのか、私は覚えていない。