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「ほんと亜実さんと仲いいよね」
誰もいなくなった店内でテーブルを拭きながら言うと、あっちゃんは洗い終えた食器を拭きながら「ああ」と気の抜けた返事をした。つい三十分前まできりっとしていた表情も、数秒放っておいたら寝落ちしそうなくらいぼけっとしている。閉店したからってオフになりすぎだ。
俺たちが店に戻ったあとも亜実さんは帰ろうとせず、そのまま夜ご飯も食べて帰っていった。
「平日の昼間によくひとりで来るからな。俺も暇な時間帯だし、よく話すんだよ」
女性のひとりランチにこの店はもってこいだろう。十一時から十四時までランチタイムだが、賑わうのは十三時頃までで、以降は静かになる。俺自身、日々の喧騒を忘れられる、ゆったりと時が流れていくようなその時間帯が一番好きだった。
食器を拭き終えたあっちゃんは、エプロンを外して冷蔵庫から缶ビールを取り出した。グラスに注がず缶のまま口をつける。ごくごくと喉に流し込むと、死んだ魚のようだった目が生き返っていた。
「おまえは? 茉優ちゃんと仲いいの?」
「へっ? なななんで?」
「なんでって、クラスメイトなんだろ?」
「そう、だけど。べつに。あんまり話したことない」
我ながらそっけない返事だった。まあクラスメイトだから普通に話すけど、くらい言った方がよかったかもしれない。
「へー……そっか」
へー、のあとの間が怖い。
俺が口ごもっていると、
「おまえ、クスノキさんって言ってたよな」
あっちゃんが天井を見上げながら呟いた。
「ああ、うん、そう。楠木茉優」
「あー……なるほど」
なにに納得したのかわからないが、あっちゃんは無言でビールを呷る。それもそれで怖い。
するとあっちゃんは俺を見て、今度はにやりと笑った。
「可愛い子だったな」
「そ……そう?」
「モテるだろ」
「さあ。知らない」
「俺があと十歳くらい若かったら狙ってたかも」
「は!? なに言ってんの!?」
血相を変えた俺に、あっちゃんはいよいよ大笑いした。まんまとしてやられたのだと気づき、体温が急上昇して爆発しそうだ。
完全に手遅れだとは思うが、これ以上ボロが出る前にさっさと片づけを済ませて、住居スペースになっている二階へと階段を駆け上がった。