ある日、私は幽霊になった。
朝の教室。いつもとなんら変わりない風景。ただひとつだけいつもと違ったのは、おはよう、と言った私に返ってきたのが静寂だったということだけ。
聞こえていなかったのだろうか。そうだよね、特別大きな声を出したわけでもないし、この騒がしい教室で私の声が掻き消されてしまうのは仕方がない。
なんて思えるはずがなかった。私は悟ってしまったのだ。ほんの三日前まで笑い合っていたはずの──かろうじて、だったけれど──彼女たちに完全に嫌われたのだと。
静寂に続くのは彼女たちの冷ややかな視線。心臓がきゅっと萎み、一瞬、呼吸が止まる。佇むことしかできない私を見て、彼女たちの口元が卑しく歪んだのを私は見逃さなかった。
そんなの見たくなかった。気づきたくなかった。いっそのこと見逃してしまいたかった。
一種の現実逃避だったのかもしれない。私は上げた口角を下げることなく、視線を床に落とすこともなく、教室の中心にある自席へ向かった。
休み時間になれば自然とみんなに囲まれるこの席が好きだった。けれど今は、まるでハイエナの群れに迷い込んでしまった小動物のように、恐怖に身を震わせて縮こまることしかできなかった。
悪口が鼓膜に突き刺さることも、物が飛んでくることもない。
そう、私は幽霊になったのだ。