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いつもの通り、世界が暗転。
そして、地面が固いものをとらえ、いつもの自分の部屋かと思ったら、周りの音がやけに騒がしいことに気づく。
頭が勝ち割れそうなほどに痛いことを我慢しながら、ゆっくりと伏せていた顔を上げた。
そこは____教室だった。
長谷川がけだるそうに、教壇に立ち授業をしている。
俺は頭を抱えながらそっとポケットに入っていたスマホを取り出す。
現在の日時は9月25日(月)10時。
戻ってきたことは間違いない。
そして俺は、ひきこもることはなく、学校に行くことができている。
_____ということは……。
俺はちらりと、玲の席があった場所を見ようとしたときだった。
「ゔっと……。ちょっと、この後各自自習!」
長谷川の明らかな体調不良と思われる声が教室中に響く。
教室が若干ざわめく。
そうだ、俺が戻ってきたため、長谷川もこちらの世界に飛んできたのだろう。
少し、申し訳ない気持ちを覚えながら、改めて玲の座っていた席を見たが、その席には玲ではなく別の人物が座っていた。
席替えでも行われたのだろうか。
そう思いあたりを見渡す。
紫穂を見つけ、海をみつけ……だけど玲がいない。
空いている席は_____ない。
俺はゆっくりと立ち上がり、海のほうに向かう。
海は何だといったような感じで俺のほうを見てくる。
「ちょっといい?」
俺はそういって、無意識に屋上のほうへ向かった。
海もそんな俺に倣ってついてくる。
屋上へ続く扉を開けると、5月の空気ではなく、9月下旬の少し残暑残った空気が俺らを包み込む。
「どうした、様子おかしいぞ、真琴」
さっきまで黙ってついてきた海は、屋上についたとたんにそう口に出した。
「ごめん、急に」
「いや、いいけどさ。……どうした?」
「玲のこと聞きたくて」
「玲?なんで」
なんでって……。
そのあとの言葉に詰まった。
早く状況を知りたくて、海を頼ったものの、自分の知りたいことをどうやって海から聞き出すかまでは考えていなかった。
「お前ら何してるんだよ。今自習中だろ」
どこからともなく長谷川の声が聞こえてきた。
声のほうを見ると、塔屋のほうから聞こえてくる。
「先生こそ、体調不良じゃなかったのかよ」
海がそのまま、塔屋のほうに声を投げる。
「ああ、体調不良だったのは間違いない。ニコチン不足だったからな。ほらほら、生徒は戻った戻ったー」
長谷川はそういって、上からひょいと顔を出し手で、俺らを追い払うようなしぐさをする。
海は、「不良担任!」なんて言葉を吐きながら、出口の方へ向かおうとする。
俺も続こうとしたところで
「あ、真琴。お前にお願いしたいことあるからお前は残れ」
そう長谷川から俺だけ足止めを食らう。
海は「先行ってるなー」と、軽く俺に言い放ち、そのまま屋上を下りて行った。
それを確認するや否や、長谷川は塔屋から梯子を使って煙草を口にくわえたまま器用に下りてくる。
「ったく、お前は計画性というものが皆無だよな。衝動的に動くの、時と場合によっては吉と出るときもあれば自分苦しめるときもあるから気をつけろよな」
長谷川はそういいながら、煙草の煙を秋の空へ解き放つ。
長谷川の言う通り過ぎて、うなづくしかできない俺。
「んで、俺に聞きたいとあるんじゃねえの?」
「ああ、玲って……」
俺がその名を口に出すと、長谷川は吸っていた煙草を、水の張った缶の中へ投げ入れた。
そして_____。
「死んだ」
そう、はっきりと俺の目をまっすぐに見て確かにそう俺に伝えた。
「死んだ」
意味もなく、ただただ、長谷川が言ったことをそのまま復唱する。
「ああ、やられたな。迫田に」
頭に血が一気に登るのが分かった。
人を殺したことはないけれど、たぶん人を殺したくなるほど怒りというのは多分これくらいなのだろうとふと思う。
「……なんで」
なんで死んだ。
名前は出さなかったが、あの放送で俺が玲を好きだと告白しているようなものだった。
唯一本人には伝わらなかったが、後のほかの誰かが聞けば、俺をしている奴が聞けば、迫田に対する抑止力になる。
そう、海に言われて実行した。
海は自分の気持ちを後回しにして、俺のそのバトンを渡してくれたのにの関わらず……。
「俺も、お前や海に聞いたところだから本当に事はわからないが、玲はあの後迫田に放送の意図を詰められたらしい。暗に自分が玲をいじめてるみたいないいかたが迫田は気に入らなかったらしいんだよな。ただ、これまでと違う点は、今まで陰湿に玲に行ってきたことをほかの生徒や先生がいる前でやってしまったものだから、多くの人たちが迫田を止めに入った。その言い合いになっていた場所が、階段近くだったってこともあり、そのまま人込みに押され玲は転倒。そのまま頭からいった」