そこで、映像は途切れた。
再び真っ暗闇に包まれる中で、兼嗣は茫然とする。
「……どういうことや、今の。あれは……ほんまに右京さんが言うてたんか?」
「そうだ。あれは二十年前に儂と右京が実際に交わした会話だ」
時治は相変わらずのしわがれた声で淡々と言う。
「右京には『未来視』の力があり、獅堂がお前を殺害する未来を予見した。獅堂を生かしておけば、お前の命はない。体罰の加減を見誤って殺すか、あるいは呪い殺すか……どんな手を使ってでも、必ずお前を殺しにくる。それを憐れんだ右京は、お前の代わりに、獅堂と共に黄泉の国へ向かったのだ」
未来視の力。
噂には聞いたことがあった。未来を予見し、備える力を持つ人間が、本家の中に存在するという話を。だが、
「う、嘘や。だって右京さんは、その力の存在を否定しとった。周りは確かに疑っとったけど、本人はそんな力なんか無いって頑なに……」
「それこそが偽りだったのだ。お前を守るため、本家の誰にも真実を見破られぬよう、あやつは嘘を貫き通した」
「嘘や。だってそれじゃあ、右京さんは……」
目を見開き、頭を抱える兼嗣の脳裏で、右京が優しく微笑む。彼女はこちらに背を向けて、獅堂とふたり手を繋いで、三途の川を渡っていく。
「右京さんは、俺のせいで死んだってことか……?」
口にした瞬間、足元から崩れていくような錯覚に見舞われた。
彼女が命を落とした理由。それが、まさか自分の存在にあったというのか。
「右京はお前のために死んだ。それをお前は今までずっと知らなかった。知ろうともしなかった。目に見えるものだけを信じ、見えないものから目を逸らして、仮初の平穏に生きてきた。まことに愚かだとは思わんか?」
二十年前に彼女が命を落とした理由。あれだけ呪詛返しに長けていた彼女が、なぜ黄泉の国へと引きずり込まれたのか。
今まで誰にも解けなかった謎の答え。それが、この老人の言葉を信じれば信じるほどに納得できてしまう。
彼女が死んだのは、兼嗣のためである。
「嘘や……!!」
悲痛な叫び声は、黄泉の暗闇の中でどこまでも響いていった。
◯
「……嘘だ」
同じ頃。霧に包まれた河原で、映像を見終えた天満は力なく呟いた。
「そんな……。右京さんが死んだのは、兼嗣のためだっていうのか?」
「そうだ。あの倅さえいなければ、右京が死ぬことはなかったのだ」
時治は当然といった風に言う。
天満は信じたくなかった。
「ふざけるな! これもあんたが見せている幻で、ぜんぶ嘘なんだろ!」
天満は叫ぶが、老人は動じない。むしろ冷めた目で、静かにこちらを観察するような視線を送ってくる。
「なら、なぜ右京は死んだのだ? 獅堂の呪いに巻き込まれて、何の意味もなくこの世を去ったというのか?」
その指摘に、天満は返す言葉がない。彼女の死が無意味だったという考え方は、天満にとってこれ以上にない地雷である。
「あの娘がただの不注意で黄泉の国へ連れて行かれたというのなら、それこそ無駄死にになるぞ。お前は、あの娘の死が無意味なものだったと、そう言いたいのか?」
「違う!」
彼女はただ死んだのではない。何か目的があって、自らこの道を選んだのだと、天満自身も今までずっとそう信じてきた。だが、そんな彼女の死が、まさか兼嗣のためだったなんて考えたくもない。
「どうだ、天満。武藤家の倅が憎いだろう。あやつをこのまま何の咎めもなく生かしておくのは、あまりにも生ぬるいとは思わんか?」