「――――」
――もし、初めから日愛と対していたらこうはできなかっただろう。もしかすれば、すぐに倒され、死んでいたかもしれない。
灯澄と燈燕、そして、陽織が戦おうとしてくれたからこそ、日愛の心を深く感ずることができた。日愛を知ることができた。だから、日向に惑いや恐れは無くなった。
トッと一触れ、トッと二触れ――
鬼ごっこのように日向は舞いながら日愛に掌を当てていく。あやすように、自らの心が伝わるように。
「アアアアァアアアアァァッッ――!!!」
日愛は声を上げる――泣くように、母を求めるように。
地を抉り木々を薙ぐほどの力に日向の身体に紅の線が入り、宙に鮮血の円を描く。だが、それでも日向は日愛の振り下ろした腕を流しその懐に入り――そして、胸へとソッと掌を当てた。
息がかかるほどに顔と顔が近づく。その瞳を見て、日向は「やっぱり」と内で微笑んだ。澄んだ瞳、愛らしい瞳……優しい瞳。日愛は求めていただけだ、力の限りに。
ザァァアアアアッッッ――――!!
風の圧が壁となり、衝撃が日向の全身を襲った。激しい疾風に動きが止まり身体が揺れ落ち――その刹那、
ドッ――!!
と、腕と肩を掴まれ日向は日愛に倒された。日愛の指が肉に食い込み骨が軋むが、それでも、
「……ごめんね、日愛」
日向は囁き、優しく笑った。スッと空いた右手で日愛の頬に触れる。
鈍い音が身体に響き、熱い血が傷から溢れるが、それでも苦痛に顔を歪めることはなかった。
どんな時でも、母ならば――
(わたしは、日愛を受け止める)
日愛は、目覚めた初めに「ははさま」と囁いた。日愛はただ求めていただけ。赤子の目覚めのように母を。
だから――自分が母になれるかどうかは分からないけれど、でも、日愛が求めてくれるのなら。
「日愛……待たせちゃったね、ごめんね」
血に染まり、熱くなっていた身体が急激に冷めていく――それでも日向は微笑んだ。