「日向っ!!」
再びの声――焦りと悲壮が混ざったその灯澄の叫びに、日向は変わらず優しく微笑んだ。
灯澄も、そして、燈燕も陽織も無事であることをまず安心する。でも、それも当然だった。何故なら、日愛は――
「灯澄さんも燈燕さんも駄目ですよ」
日向は日愛に視線を向け、優しく呟いた。
「だって、日愛は……戦おうとしていないんですから」
日愛は戦っていなかった。傷つけようとしていなかった。邪魔をするから抗っていただけだ。感情のまま、自身の溢れる力を御することができず。
だから、対抗すればするほど日愛も力を強めていた。
「ぐずる子にはぎゅっと抱きしめて、背中をとんとんって叩いてあげる」
日愛の力が強すぎる為、一つ一つの所作でも周りが傷ついてしまう。そんなことをさせては絶対駄目だ。それは、日愛をも傷つけ悲しませる。
だから――力を弱めてあげる。
「そうしたら落ち着いてくれる……日愛も一緒」
ふわりと微笑み日愛に向かって手を向け、呼びかけた。
「おいで、日愛」
「――――ははさま」
ゴォォオオオオオオッッッ!!!
日愛の言霊にかまいたちが荒れ狂った。日向の術衣が切り刻まれ肌をも切り裂いていくが、それでも日向は日愛の前から動かなかった。
バサッと翼を靡かせ、日愛が向かってくる。すぐに抱きしめてあげたい。自身も望み、日愛もそう望んでいた。だけれど、今は我慢する。今抱きしめたら、自分の身体が壊れてしまう。
サァァァ――――
葉が舞う。少し荒び、激しい舞いだったが、日向は新緑の葉一枚を掌で躍らせた。
風に流れ神楽舞う。日愛という愛しい神に向けて。
「――――」
日愛が腕を振るたびに旋風が舞い上がる。その風に乗り花弁が踊るように日向は日愛の腕を流し捌き――幼子と遊ぶように舞っていった。纏いは切り裂かれ、肌に血の糸が無数に記されるが、それでもにこりと微笑み日向は踊る。
耳に風の詩聴こえ、荒ぶる風は楽を紡ぐ。散る葉は流れ、鮮やかな翠は場を彩った。
神楽の舞台――母子の舞。