なお踏み込み、陽織は日愛を掴もうと手を伸ばす。それを避けるように、少しだけ退き――日愛は左右から来る二人に更に空へと舞い上がった。
 空へと上がった日愛に、灯澄と飛燕はなおも追い向かう。
 だが、

 ――――ゴォォオオオオオッッッ!!!

 日愛の鋭い視線に風が応え、一帯に風陣の圧が襲い掛かった。地を揺らし、木々を打ち倒し、円状に周囲を壊していく。

「――――っ!!」

 膝をつき、灯澄、燈燕、陽織は地に伏した。身体にかかる圧力を何とか耐え、風が治まるを待つ。

 ザァァァアア――――

 やがて、一際激しい一陣が通り抜け、ようやくにして風は止まった。だが、息をつく間もなく三人は動き出す。
 動きを止めるわけにはいかない。力を放っているとはいえ日愛の衰えは全くなかった。こちらが逡巡すれば、それだけ危険が増す。
 力では敵わない。今はこちらの動きを止めず、日愛を制するしかなかった。だが、それでもいい。今は壁となるしかできない。
 何より――そう、何より日向を護る為に。陽織は壁に成ることを定め、日愛へと対し向かった。

「灯澄さんっ、燈燕さんっ、お母さんっ!!」

 ――その瞬間、咄嗟に日向の頭に閃いたものは灯澄、燈燕、陽織が傷つけられたことへの感情ではなかった。

(……駄目)

 焦燥が募る。こんなのは駄目だった。三人を……いや、日愛を戦わせてはいけない。

(もう傷つけさせてはならない)

 日愛に傷つけさせるようなことをさせてはならない。母たちが傷つくだけではない。それよりももっと深く日愛は傷つく――

(あの子は戦いを望んでいない――!)
「――日愛」

 凛――と、日向は自然と唇を動かしていた。戦いの最中だというのに、不思議とその声は場に響き、静かに深々と流れていく。