燈燕は火の粉を散らせ、遊ぶように指先で炎の円を描きながら笑った。燈燕自身も自分の力を使うつもりはなかった。だが、灯澄と同じく使わざるを得ない状況となっている。そのことに苦笑した。
「燈燕さん、駄目ですっ!!」
「安心しろ。傷つけるようなことはしない」
「違うんです! 日愛は――」
ゴォォォオッッ!!
日向の声はかき消され、荒ぶ風の刃が灯澄と燈燕に襲い掛かった。
「っ!」
燈燕は炎を現し地へとぶつけた。爆風を使い、日愛の風を弱まらせる。火と風は合わせれば相性が良いが、対するとなると相性が悪い。しかも、日愛のほうが力が上なのだ。押し返すほどの術は使えない。
渦巻く炎と風を一閃し、灯澄は力を弾き飛ばした。燈燕が加わったとて日愛にとっては関係はない。先ほどと変わらず風を纏い翼を翻した――ただただ一筋に日向に向かって。
力押しになっている。こうなると、こちらが不利だった。力の差がある以上、いずれは崩れる。だが今は耐えるしかない。耐えれば――
「――――っ!」
燈燕は炎旋で風を抑え、灯澄が斬り弾く。近づく日愛を牽制しつつ左右に分かれ、炎と刀で挟み動きを封じた――が、それも一時。
日愛の声と共に放たれた天狗風は二人を押し返し、身体を無数に切り刻む。だが、それでも動きは止めず、灯澄と飛燕は地に足を滑らせ日愛の進む路を止めた。
少しずつ、徐々に押されている。だが、耐えねばならない。耐えなければ――
(日向を護ることができない)
灯澄と燈燕は奥歯を噛み締め、内で声を上げた――だけれど、それがおかしいこともどこかで気付いていた。
だが、今はそれしかできない。何故、それしかできないか――それは分からず、考えずに逃げ、ただ灯澄と飛燕は耐えていた。
日向を護るという一念だけを信じ定めて。灯澄と飛燕は耐え戦っていた。