昔と今の違い――それはいうまでもなく、日向だった。
十五年前、その時は戦うという意識はなかった。今だからこそ分かる。共に日愛に対しながらも、灯澄と燈燕は日向の母に護られていたのだ。日向の母が持つ空気に、触れた心に。だからこそ日向の母に信を置き、戦わず日愛を治めることができた。
だが、今は違う。自分たちが日向を護らなければならない。どれだけ似ていても、どれだけ同じでも、日向に全てを預けるわけにはいかない。
そう、そして――本気で戦わなければ日愛を止められない。
「っ……!」
柄を握り締めることで心を押さえ、刀を水平に一閃させ回転と共に逆袈裟に切り上げ風刃を散り弾かせた。
「アアァアアアアアァァッッ!!」
日愛の叫び、母を求める赤子の泣く声――その音声に応えるように風の疾風は激しく荒び、巨大な刃となって灯澄に襲い掛かった。
これだけの力、おそらく受けきれず、弾けきれない。流すこともできない。捌き流せば、後ろにいる日向に害が及ぶ。日向も避けるだろうが、無傷ではすまないだろう。
退くことはなおできない。退けば日向と日愛の距離が縮まる。
「――――」
心を冷たく落とし、瞳を鋭くさせ灯澄はスッ――と息を吸い、止めた。刹那の中、一歩踏み出し、裂ぱくの気合と共に荒ぶ風刃へと一閃する。
――――ィィィンッッ!!
激しく鋭い音が耳をかすめ、頬に、全身に血の線を引いていく。このままでは弾かれ倒されるだろう。だが、それでも灯澄はなお身体に力をいれ踏み止まった。勢いさえ殺せればいい。そうすれば――
日愛は翼を翻し、構わずこちらへと向かってきた。日愛が近づくにつれ、風の勢いも強まる――が、
ゴォォォオオオオッッ!!!
巨大な炎が壁と現れ、風が弾かれると共に日愛も飛び退った。
「――――」
風刃が止み、灯澄は刀を下ろす。やがて炎壁は宙に消え、ザッと灯澄の横にもう一人立った。
「まったく、歳かのう。幼子と遊ぶのは骨が折れるな」