「灯澄さんっ!!」
灯澄の手にしたものに日向が声を上げた。日向の言いたいことは分かっている。だからこそ、応じることはしなかった。
傷つけるつもりはない。刃は潰している――万が一を避ける為に。元より、自らの全てを出しても傷つけられるかどうか。倒すと信念しなければ止める事すら敵わない。
「――――」
――そこで灯澄は心の隅に浮かんだ違和感に思考を止めた。以前はどうだったか、日向の母と共に対した十五年の前は。日愛の力はともあれ、自身は倒すという意識は微塵もなかったはずだ。
あの時は何故、倒すという意識がなかったか。
どうやって、日愛を治められたか。
「――灯澄さんっ!!」
声に現実に戻る。向かってくると同時に放たれた日愛の疾風を刀で受け、衝撃に倒れそうになる身体を足の親指に力を入れることで何とか耐え忍び、斬り返し風を弾きだした。
弾いた凪の刃が肌に紅の線を無数に刻むが、そのことは無視し灯澄は振った刀を戻し体勢を整える。日愛は目前へと迫っていた。
ゴォッ――――!
襲い掛かるかまいたちを刃で受け、斬り、弾き、捌く。重く圧し掛かってくる衝撃に身体を保つことで精一杯だった。
近接したいが風の刃が重すぎ近づけず、距離を空けなければ捌けない。だからといって、下手に距離を空ければ日向に危険が及ぶ。日愛の動きを防ぐように一定の距離を測り立ち回らなければならない。
(日向を護らなければ――)
気迫と共に刀を振り下ろした。心の闇を払うように、迷いを断ち切るように――違和感の因を悟ったからこそ。