いや、日向の瞳。その奥に潜む感情――恐れではない。恐れではないが、情が生まれ動けず避けることができなかった日向が果たして。

(舞えるのか?)
「灯澄っ!!」

 燈燕の声が響く――その瞬間、

 ゴォオッッッ――――!!

 天狗風――回りの木々が薙ぎ倒されるほどの突風に、日向たち四人は吹き飛ばされた。

「――っ」

 日向を庇いつつ地を転がり、何とか足を滑らせ灯澄は体勢を整えた。見れば陽織と燈燕も飛ばされたものの大事はないようだった。そのことにまずは安心する。
 とはいえ、だった。旋風の荒ぶ神木の地で、膝をつき灯澄は日愛へと視線を向ける。

 ――やはり、覚えてはおらぬか。

 正直にいえば、甘いと分かっていながらも淡い期待があった。もしかすれば、我らのことを覚えているのではないかと。しかし、やはり覚えてはいない。目覚めの赤子に酷とはいえど。
 そして、目覚めた赤子が泣いて求めるは母のみ――日愛の母となりえる日向のみ。

(……しかし)

 初めから全てが外されている――その事実を認め、舞う新緑の葉を手で払い灯澄は内で唸った。以前より日愛の力が上がっている。十四年の時に宿ったものか――いや、本来の力に戻りつつあるのか。
 どちらにしろ、これほどの力。もう隠すことはできない。そして、放っておけばこちらが考えていた以上の害が出るだろう。退くことはできず、時をかけることもできない。人は来ないだろうが、妖であれば感ずく者もいるだろう。その前に日愛を助け身を隠さねば意味がない。

 何より、時が長引けば日向の体力が持たない。いや、戦いの前だ。日向に迷いが生まれた以上、対せるかどうか――舞えるかどうかを見定めなければならない。
 我らは護る。だからこそ、今は対する準備ができていない日向を日愛に向かわせるわけにはいかない。

「――――」

 超然とこちらを見下ろす幼き童女――真白き翼と純白の衣、陽を背に空に居るその姿は諸天の使いかと見紛うほどだった。いや、その例えは間違えではない。
 日愛は天逆毎姫の血の者。我が子と思い忘れていたその事実を改めて認める。我らが対するは女ノ神の子なのだ。