――穢れのない、真白き衣。巫女服に似ているが、そうではない。詳しいものが見れば分かるだろう。
術服。神楽の舞姫とも見えるような、そんな衣を身に纏い、日向は羽織った千早の紐を結んだ。
「よく似合っています」
着付けを手伝っていた陽織の言葉に、日向は少しだけ恥ずかしくなりはにかんだ。
日向の顔に陽織も微笑む。懐かしさと愛おしさと……悲しさは胸に秘め、
――本当にそっくり。
そう胸の奥で呟いた。
「本当に……よく育ってくれました」
障子から射してくる朝の閃光。薄暗い部屋の中で陽織は立ち上がった。日向の肩に触れ、ソッと抱き寄せる。
「…………」
日向は黙って陽織の抱擁を受け入れた。艶やかさはないが、落ち着いた色合いの上品な衣を纏った母。日向の術服とは少し異なれど、陽織もまた袴姿だった。
これが母子の祝いの装束であれば喜びもし感動もするのだろう――だが、残念だから祝いの装束ではない。神楽の舞装束でもない。
戦舞の衣。そして、一つ間違えれば死に装束にもなる。
「……このまま帰ってもいいのですよ」
「…………」
答えを分かっていても……あの時と同じと分かっていても、陽織はそう伝えた。
受ける日向は無言。僅かに瞼を伏せ、母の胸に額を触れさせる。
母子の静寂の時――二人の内を包むは何の想いだったか。
「準備はできたか」
そんな時、障子の外の廊下から声が響いた。
「はい」
日向は母から、陽織からソッと離れ、そして、障子の外へ、声の主へと静かに応える。