「――――」
言葉なく、灯澄は知らず魅入られていた。静寂の場、風詠うこの舞台を自分が壊したくなかった。
そんな灯澄に、日向はふわりと微笑を向ける。舞う前のように少しだけ頬を染め、「どうでしたか?」と問いかけるように。
(――まったく)
愛らしい少女のようなその微笑に、灯澄は思わず苦笑しふっと息をついた。
こちらが舞えと願った以上、何も言わないわけにはいかない。言葉は無粋となると分かっていたが――元より、言葉が上手いわけではない――灯澄はそのままを伝えた。
「良い舞だった」
「ありがとうございます」
灯澄の一言に日向は歩みを進め近づき、恥ずかしさを含んで笑った。
「そうだな。なにか礼をせねばなるまいが」
「いえ、そんな……」
酒を口にし、灯澄は立ち上がった。日向へと近づき、そして――
「――――」
唇を合わせる。柔らかい感触とともに、日向が初めて味わうものが流れてくる。
「――これで、よく眠れる」
口移しで酒を飲ませ、灯澄は唇を離し微笑んだ。
「灯澄さん……」
驚く日向の頬を撫で、灯澄は言葉を続けた。心で謝り、そして、新たに定めて。
「花のように舞い――そして、救ってくれ、日愛を」
言葉に心を込める。誓い、伝わることを願う。
「我らも共に在り、助ける」
月の蒼き閃光が灯澄の瞳を照らす。鋭く、だけれど、その奥底は優しい灯澄の瞳。
何が日向に伝わったか、何を感じ、何が心に宿ったか。
「はい」
凛――と日向の言葉が鳴る。心に宿ったもの、定めたもの、その全てを込めて、内に誓う。
月夜にあって、陽に花開いたように――桜舞う中で、日向は優しく微笑んだ。