「いや、お前が感じたままに舞ってくれればそれでよい。月光に照らされ、風と遊び、花と舞う。今、感じるままの、微笑む心そのままの姿で……」
「灯澄さん……」
「頼めるか、日向」

 再度のお願いに、日向は恥ずかしそうに微かに頬を染め、一度だけ瞳を閉じると、

「はい」

 頷き、灯澄に向かいふわりと微笑んだ。

 ――サァァァァ――

 穢れなき純白の衣を揺らめかせ、月光のもと花弁に遊び、桜と共に舞う――少しだけ笑みを含んだ、少女の舞。
 確かに形にはなっていない。だが、桜花と戯れる姿は本当に嬉しそうで楽しそうで、そして、自然だった。生き生きと伸びやかに舞う姿は喜びに溢れ、天女のように踊る。
 花と一つとなる――そうだった、こやつの母も。

(わたしが誤っていたようだ)

 いや、知っていたつもりだったが、忘れていた。実戦など――戦いなど必要なかった。日向も、日向の母も戦いにおいて『戦っていなかった』。柔らかく微笑み、舞っていた。我らと初めて戦ったときのように。
 戦うという意識は、逆に日向にとって邪魔になる。何故、それを忘れたか。灯澄は己自身に叱責した。焦るあまりに、戦わせることしか頭になかった。戦いだけにしか心を占めていなかった。
 日愛を救いにいく――日向が一番分かっていたではないか。我ら二人よりも。

 ――サァァァァ――

 ひらりと一枚、ひらりと二枚――
 日向は薄紅の桜と遊び、そして、舞の終わりか、風さらさらと一陣流れ、舞い上がった花弁の中で掌をそっと差し伸べた。
 花弁一枚舞い降りる。共に楽しんだ会話を終わらせるように、お礼を言うように、そっと桜花を掌に包み――日向は胸へと当てた。