「――日向」
灯澄は一歩踏み出し、日向の首を掴み顔を上げさせた。
「戦いに優しさはいらぬ。私を殺す気で来てみろ」
「――――」
灯澄の瞳。その殺気に――日向は首を掴んでいる灯澄の手にソッ触れた。
「……灯澄、さん……わたしは……」
触れた手に伝わる温もりと、日向の心。
傷つけられ、倒れそうになるその身体で、失いそうになる意識のその中で、日向は微笑んだ。
「救って見せます……必ず」
「…………」
灯澄は首の手を離す。その腕が支えだったのか、日向は身体を前へゆらめかせ灯澄の胸へと倒れこんだ。
こちらの心に温もりだけを伝えて、日向の意識はなくなっていた。
(戦えるかどうか)
胸にある日向を見つめ、灯澄は内で呟いた。答えはでていない。だが、答えは出さなければいけない。
「――日向っ!!」
遠くで見つめていた陽織が声を上げ、走ってくる。
倒れた日向は陽織に任せ、遅れて歩いてきた燈燕に灯澄は顔を向けた。
「灯澄よ」
その呼びかけだけで燈燕が何を言いたいのかは分かっていた。長い付き合いだ、おそらくは燈燕も自分と同じように感じているに違いない。
灯澄は空を見上げた。
陽は中天を越えている。日向はすぐには目覚めないだろう。そして、目覚めてもすぐに修練はできない。
今日はもう終わりだった。残りは一日。