「…………」
――日向はふと足を止め空を見上げた。空は蒼く、暖かな陽が射している。
「行くぞ、日向」
呼びかけられ、日向は再び足を踏み出した。心に浮かんだ顔に、一言謝って――
家を出てから二日。電車を乗り継ぎ、バスを降りてから三時間ほど。
日向を含めた四人は山の中を歩いていた。山深い場所、人の営みが感じられる家や田畑を見なくなってから大分経つ。人の道ではない獣道を通り、時には急な斜面を歩き、時には転がる岩石を登っていった。
「――ここは城守家が所有している山でな。国でも数少ない霊山の一つだ。話したとおり、お前の一族は妖とは敵対していなかった。伏し降す、つまり、治める役割を担っていた。とはいえ、その役割のため身を隠さねばならなくなったのだが……」
人の手が加えられていない、全くの自然。そんな道でない道を灯澄と燈燕は袴姿のまま息も切らさず平然と歩いていき、後ろから付いてくる日向へと話を続けた。
「ともあれ、我らの子のため、そして、慕ってくれる妖のためにお前の一族はこの山を買った。だが、隠れる身として自身を表に出すわけにもいかない。だから、縁があった城守家の名を借りたというわけだ」
灯澄は気づかなかっただろうが、後ろで少し息を乱しながら日向は話に頷いた。多少の武道の心得があるといっても、日向はまだ少女……いや、少年だった。大人でもくたびれるような登山で息が上がってしまっても責められることではないだろう。現に、隣に居る陽織も息を切らせていた。
そんな陽織を見咎めて、燈燕は呆れたように呟いた。
「なまっているのではないか、陽織。前は、これくらいのことで疲れるお前ではなかっただろう」
「すみません……」
「急ごう。日が暮れる前までには着きたい」
謝る陽織を気にすることなく、振り返ることもなく灯澄は静かに告げ足を早めた。そのまま、話も続ける。