「私から説明しておくわ。日向と会わせたら、納得いくまで離れないでしょうし……全てを話すわけにはいかないでしょう?」
背中だけでは妃紗がどういう表情をしているか分からない。だけれど、背中を向け表情を見せたくなかったということが妃紗の心情をよく表していた。
「知ったら知ったで付いて行きかねないしね。ううん、あの子なら付いていくわ、絶対に」
冗談っぽい口調で続ける妃紗。そんな妃紗に、陽織もこれ以上話を続けることはしなかった。
「そうですね……申し訳ありません」
「いいのよ。私にも責任はあるし」
妃紗は振り返ることなく笑った。笑い飛ばそうとして……完全に笑い飛ばすことができず、自嘲を隠せずに。
妃紗は内で後悔していた。妹に懺悔する。別れがあると分かっていて、面倒を頼んでしまった。傍に居続ければ離れにくくなることが分かっていて……。
こうなるのだったら、と思う。こうなると分かっていたのだから――
(――日向に会わせるんじゃなかった)
もし、日咲が泣いて強情されたら自分はどうするのだろう、と考える。妹には弱い。日向の家に行くことは目に見えていたし、おそらく自分は止めることはできないだろう。
そして、もし日向に会え真実を知ったらどうなるのだろうか。悲しむのか、憤るのか……それとも、喜ぶのか。 ただ一つだけ、予感としてある。良い予感なのか悪い予感なのかは自分でも分からなかったが、真実を知ったとき妹の人生は決まってしまうのではないかと、そんな予感があった。
(……やっぱり、会わせるんじゃなかったわ)
どちらにしても、妹は変わってしまう。その懺悔と後悔が胸を過ぎり、重く深く圧し掛かった。
妹が自分から離れるのではないかと、どこかへ行ってしまうのではないかと――そんな考えが浮かび、妃紗は複雑な想いにそっと内で吐息をつく。
――でも、それでも。
妹には弱い。だからきっと、それでも妹の幸せを一番願ってしまうのだろうということは妃紗自身が一番良く分かっていた。