「まだ、どうなるかは分かりません……まだ」
「本当にそう思ってる?」
「…………」
妃紗の問いに陽織は黙る。
正直な人――と、妃紗は思った。嘘をつくことができないのだろう。再びここへ、普通の学園生活に戻れるかどうかは難しい。いや、帰ってこれたとしても以前のようには戻れないだろう。
だけれど、戻れるだけでも良しと思わなければいけないことも事実だった。現状では無事に帰れるかどうかも分からない。もちろん――無事だったとしても、戻ってこない、戻って来れない可能性のほうが高いのだが。
「……でも、日常は残しておきたいのです。普通の生活が、戻れる場所が在るということをあの子にも知っておいてほしい」
「もちろん、私も追い出すつもりはないわ」
親友として、学園長として、そのことだけは即座に伝え、妃紗は明確に答えた。
「だから、休学ということにしておきましょう。いつでも戻って来れるように」
「ありがとうございます」
「いいのよ、私も戻って来て欲しいから。日向にも、貴女にも」
本心から伝えてくる妃紗の言葉に胸が締め付けられ、感謝と申し訳なさを含めて陽織は深く頭を下げた。
妃紗の気持ちは本当に有り難かった。そして、だからこそ日向も自分も無事でいなければならないと更に決意する。戻って来るかどうかは日向が決めることだとしても、戻れる場所と戻って来て欲しいと願う人が居ることを深く胸に刻んで。日向にも伝え、忘れさせないように。
――戻って来て欲しい人。そう思った時、先程話したことが陽織に蘇った。妃紗だけではない。日向に一番戻って来て欲しいと願っている大事な人がもう一人居る。
「日咲ちゃんには……」
頭を上げ、陽織はこちらへと振り返っていた妃紗を見つめた。陽織のその言葉に妃紗は一瞬だけ表情を曇らせ……顔を逸らし背中を向けると静かに口を開く。