九つというと微妙な歳の差だ。
 妹というと歳が離れすぎ、娘というと歳が近すぎる。日咲が物心ついた時には、自分はもう十分に心が大人だった。娘のように育てたとはいえないが、かといって姉妹のように接したかというと、世間でいう姉妹とはかけ離れている気がした。
 妹であり娘……そんなだから、自分は日咲に対して弱いところもある。甘やかすことはないけれど、強情を通されると許してしまうことが度々あった。

「――晩くに申し訳ありません」

 まず最初に頭を下げた陽織は、静かにこれまでのことを話し始めた。とはいえ、これは始めからお互いに了承していたことでもある。城守家が世話をすることになったその前から――陽織の一族が滅んだその日から。

「そう……時が来たということね」
「はい」

 一通りの話を聞き、静かに呟いた女性に陽織は頷いた。
 クラシックな趣のある学園長室。学園長室に初めて入った時から内装は変わっていない。唯一、変わった点を上げるとすれば、机の上に飾られている花と、引き出しの中の物と、書棚に並ぶ本と書類だった。
 年月を重ねることによって威厳と落ち着きが備わった学園長机や書棚、照明や調度品。ドイツ製だという古い時計が時を刻み、室内は静かな落ち着きと沈黙が支配していた。

 ソファーから立ち上がり、日咲の姉――城守妃紗(しろかみ ひさ)は二三歩歩き窓のほうへと視線を向けた。なんだかじっと座ってはいられなかった。想いに耽る時の癖だが、そうすることでいつも一息ついていた。
 応接に使っている机とソファー。妃紗が座っていた正面には真剣な眼差しを向ける陽織が居た。

「分かっていたことだけれど、残念ね。妹は……日咲は日向と仲が良かったから」

 妃紗は首を僅かに振り、吐息と共に呟いた。いや、仲が良いというよりも、日咲は日向を慕っていたといったほうが正しいかもしれない。
 妹は内に秘め隠そうとしていたようだが、姉として見ればそれは分かる。友人という好意以上のものを妹は、日咲は日向に持っていたことを。