「お前の――一族は滅ぶ前に一つのことを我らと誓約し、そして、お前に託した。一人の妖を鎮め助けることを」
一瞬言葉を選び、灯澄は先を続けた。「お前の母」と話しそうになった――陽織のことではなく本当の母親を。だが、それを今話すわけにはいかない。
例え、もう逃れられないのだとしても、日向自身がすでに覚悟しているとしても、やはり今は話すわけにはいかない。
話すのはこちらの願いを成した後、無事に生き延びてから――再度、灯澄はそう自身に言い聞かせ、座卓から離れ改めて姿勢を正した。燈燕も座りなおし並んで正座する。
「我らは誓約に従い、時を待った。お前が大人に成る時を、封印が解ける十四年の間を。そして、時は来た」
そして、スッ――と二人は頭を下げた。日向へ向かい願いを込めて。
「日向。我らを――我らの子を助けてくれ」
誓約とはいえ、無茶な願いをしていることは承知していた。今まで普通に過ごしてきた子供に命に関わる戦いをさせようとしている。蒼紅の二人もその理不尽は十分に承知している。だが、日向に願うほか道はなかった。
「…………」
日向は黙って二人を見つめていた。自身の力、自身の一族、妖、誓約――そして、託された願いと決断。全てを理解し受け入れるにはあまりにも多すぎ、重かった。
沈黙と静寂――それがどれくらい続いたのだろうか。
「……灯澄さん、燈燕さん、お顔を上げてください」
日向は静かに呟き、二人に促した。頭を上げ、見つめてくる蒼紅の二人と、悲しい面持ちを向ける陽織。そんな三人の視線を受けながら、日向は微かに息を吸い込むと凛と小さく鈴なるように唇を動かした。