幼き身でも理由があることはすぐに察しられた。だが、悲しみを宿した――陽織は悲しみを隠そうとしていたのだろうが――母に対して、なお問いかけることはできなかった。それは、悲しみを深めることになるのではないかと思ったからだ。
そして、日向は母のため女としての生を全うしようとした。
「お前の一族は人とは違う不思議な力を持っていた。その為、身を隠さねばならなかった。女人と偽り、誰にも悟られないように」
女人と言われ感情が揺らぐかと思ったが、日向に動揺がないことを確認し灯澄は話を続けた。――もしかしたら、と心の隅で浮かべながら。
「癒滅の力――万物を癒し、万物を滅ぼす力。それが、お前の力だ」
灯澄の言葉に……日向はまた惑うことはなかった。僅かに瞼を伏せただけで、静かに灯澄の話を受け入れている。
その態度に灯澄は内で頷いた。やはりそうだ、日向はこちらが考えているよりも我が身のことを分かっている。
「薄々気付いてはいたようだな。自分が人とは違うことを。力の存在を」
「……日向」
「なるほど。どうやら一番分かっていなかったのは陽織のようだな。情が深くなると盲目になるものだ。子のほうが余程理解している」
面白がるように話す燈燕の言葉には答えず、陽織は日向へと視線を向ける。燈燕の話したことを認めたわけではないが、確かに、まるで全てを知り受け入れているかのような日向の表情に一番驚いているのは陽織だった。呼びかけられた日向は、安心させるように、そして、申し訳なさそうに微笑み、再び灯澄の瞳を見つめる。
灯澄もまた茶々をいれる燈燕を視線だけで戒め、日向へ向かい口を開いた。