凛とした眼差し。日向の姿勢はすでに整っているようだった。身体の姿勢も、心の姿勢も――話を聞く覚悟も。

(ならばこちらも正さねばならぬな)

 蒼い袴の女は内で呟き姿勢を正した。聞く相手がすでに整っているのに、話すほうが整っていないのは失礼だろう。瞳に冷たく鋭いものを映し、心に刃を宿す。

「どうやら、聞く姿勢は整っているようだ。ならば、余分な話は無用だろう」

 そう前置きして、蒼き袴の女は日向の瞳を見つめた。

「まず、名も名乗らなかった非礼を詫びよう。改めて、私の名は灯澄(ひすみ)という」
「私は燈燕(ひえん)だ。よろしく頼む」
「城守日向です。よろしくお願いします」

 二人――蒼い袴の灯澄と紅い袴の燈燕が挨拶したのに対し、日向も改めて名乗り頭を下げた。

「全てを話せば長くなる――そして、お前が全てを受け入れるには時間も必要だろう。だが、生憎と惑っている時も葛藤している暇もない。お前には、急ぎ一つの決断をして貰わねばならぬ。まず、それを理解しろ」
「はい」

 視線を外さず返事を返す日向に、灯澄は頷いた。日向の覚悟はすでに確認している。そして、聡明なることも知った。ならば言葉を濁す必要は無いだろう。隠すことなくそのままを伝える。

「お前が女人の姿をしているが、男だということは知っている。どうして、女の姿となり身を隠さねばならなかったのか、その理由は聞いているか?」

 日向は静かに首を振った。もちろん自身が男であることは知っている。女だと偽っていることも。
 幼き時、母である陽織から「女として生きなさい」といわれた日――日向は悲しみを宿した母のその瞳に素直に頷き、問いかけることはしなかった。