――沈黙が続いた時間はどれだけだったか。やがて、遠くより僅かな足音が聞こえ障子の前で止まると、静かにスッと開かれた。

「申し訳ありません。遅くなりました」

 まだ湿った髪のまま、着物を纏った日向が頭を下げ居間へと入る。その姿を目にした瞬間、蒼紅の二人は思わず苦笑してしまっていた。

(どうにもこれは……)

 この場合、着物が似合うは皮肉でしかない。綺麗と褒めるのもおかしいだろう。だが、困ったことに他に形容のしようがないほど日向の姿は愛らしい少女そのものだった。この姿、纏う空気――似る、というのも間違っている気がする。瓜二つ、まるで同じ人のようだ。
 日向は障子を閉め、蒼紅の二人の正面へと座り、

「お待たせしました」

 と、ふわりと微笑んだ。

「いや、こちらとて急かせたようだな。すまない」

 蒼い袴はまず謝した。本当に困る――そう胸で呟きながら。日向の空気に当てられて、和んでしまいそうになる。どんな空気をも和ませてしまうのは、母にそっくりだった。
 お風呂を上るのに合わせてあらかじめ用意していたお茶をトッと前へ置かれ、日向は「ありがとうございます」と陽織にお礼を言ってから湯飲みに唇を触れさせた。

 蒼紅の二人も、ふっと一息をつく。ここからが本題だった。本来なら、今からが日向の夕食となるのだろうが……残念ながら食べるのは後にしたほうが良かった。息が詰まるような話を夕食の後にするのは些か可哀想だろう。
 日向は座卓に湯飲みを置き、スッと蒼紅の二人を見つめた。おそらく風呂を入る中で何をか考えたであろう――母のこと、出会った二人のこと、自身のこと。何を考え、何を内に持ったか。