(日向の幸せか――全てを聞けば、確かにもう後には退かぬだろう)
再会して短く、一度だけの手合わせだったが、蒼い袴の女は日向がどういった性格をしているかは感じていた。陽織の話す通り、宿命の道を選ぶだろう。だが、それによって死ぬことがもしあれば……幸せも何もない。全てはそこで終りとなる。
だからといって、我らの願いを捨てるわけにはいかない。それは、日向の母をも裏切ることとなる。
「――分かった」
しばらくの沈黙の後、蒼い袴の女は全てを飲み込み頷いた。知らず伏せていた瞼を開け、陽織へと鋭く冷たい視線を向ける。
「お前のいう通り全てを話すのはよそう。だが、我らの願いも成して貰わねばならぬ。それは分かるな」
「……はい」
蒼い袴の女は信念を持つことにした。日向を必ず戦えるようにすると。あの者を救って貰うと。その上で、日向がどういう生き方をするかは日向自身が決めること。
「願いを成した後のことは日向に任せる。それで良かろう」
幼い……いや、もう十四にもなるのだ。幼いというより若いといったほうがいいだろう。
若い子に決断を任せるは、一種の危うさも持っている。だが、日向の母も同じ歳には重き運命を背負い受け入れていたのだ。果たして、日向は同じように背負えるか。我らを背負い、導けるだけの人間か――長としての器と才と徳はあるか。
「いいな、陽織」
「はい……」
蒼い袴の言葉に陽織はただ返事だけを返した。
誰も口を開くことがなく、沈黙と静寂が訪れる。後は待つだけしかない。話の中心を。願いを託すべき子を。