「全てを話せば、同じです。あの子は……日向であれば迷わず選ぶはず。日常ではなく、自らの宿命の道を」
「ならば、それが日向の意志だ」
「分かっています。ですが……」

 なお言い募る陽織。昔を知る者としては、こんな陽織は珍しい。あれほど日向の母のことを常に考え、その意志を何より尊重し仕えていたというのに。
 何より、母の情というのであれば、尚更、気持ちが分かるはずだった。自身が母となり日向を育ててきたのだ。その想いも、願いも、日向の母に仕えていたからこそ誰よりも知っているはず。それでいてなお、ここまで反するのは……
 紅い袴の女は胸に浮かぶものがあり、陽織へと視線を向けた。

「もしや――母の情以外のものを持ったか」
「っ!?」

 見ていて哀れに思うほど陽織は動揺し、身体を震わせた。自らの考えを内に籠もらせるその性格のためか、一度感情が揺れるとすぐに表に出た。昔から変わらない陽織の性格に、懐かしさとともに苦笑もするが俄かに笑うこともできず、紅い袴は隠すことなく息をついた。

「やはりそうか。あやつは母御そっくりだが、女人ではない。だからこそ、別の情を持ったか」
「違いますっ!!」

 声を上げて否定するが、あからさまに動揺した姿が答えを教えていた。二人の今の会話を聞き蒼い袴の女もまた内で息をつき、静かに口を開く。

「騒ぐな。お前の内は分かった」

 とはいえ、陽織の心が分かったとしても状況は何も変わらない。いや、逆に陽織は日向に対して本当に何も訓えていなかったことが分かり、現実はなお厳しくなった。多少は何かを訓えていたのではないかと期待したのだが……かといって、これ以上陽織を責めることも意味のないことだった。
 蒼い袴の女は頭を巡らせた。時間はない。その僅かな時間で、日向は果たしてどれだけ戦う術を身に付けられるか。身に付けた上で、どれだけ戦えるようになるか。
 そして、当然もう一つのことも考えねばならない。戦えなかった場合はどうなるか――