「先にお風呂を召して来なさい」
離れていいのだろうかと思ったが、母――陽織の言葉に日向は素直に従い自分の部屋へと行くことにした。自然、和室の居間には日向以外の三人だけとなる。
座卓の傍らに並んで座る蒼い袴の女と紅い袴の女。蒼い袴の女は正座して、紅い袴の女は胡坐をかいて――陽織は二人の前にお茶を置き、自身も下座に正座した。
「……お久しぶりです、お二とも」
十四年振りの再会に、懐かしさよりも様々な想いが到来し陽織はそれだけを言って口を閉ざした。
沈黙の中、紅い袴の女はお茶をすすり、蒼い袴の女は腕を組み僅かに瞼を伏せていた。全てを話すには長すぎる年月。そして、口を閉ざすに十分の重い年月。この再会は喜ばしいことではない。しかし、再会しなければ止まっていた刻は動き出さない。それが、幸せか不幸せか分からずとも。
「あやつはそっくりだな。目にした時は驚いた」
物思いにふけっていたのか、それとも、何事かを考えていたのか。蒼い袴の女は、静かにそう切り出した。
陽織に視線を向ける。だが、親しみを込めた優しい口調とは違い、その瞳は鋭く冷たかった。
「よく育てた。といいたいところだが、聞きたいこともある。何故、道場などに通わせている?」
「…………」
「お前が訓えるべきだったろう。道場の組手と実際の戦いは違う。それを分かって、何故お前が訓えなかった?」
続く問い詰めるような口調に、陽織は黙って俯いていた。
「役目を忘れたか」
「忘れていません……忘れられるはずがありません」
「では、何故だ。あやつが、日向が背負うが大なることは知っていたろう。それでいて、何故お前は訓えなかった」
「…………」
再び黙る陽織。俯き、顔に愁いを湛え、そして、何事かを耐えるように口を噤んでいた。
その姿に、蒼い袴はなお視線を鋭くした。冷たく問う。