――やがて、日向は一軒の家の前で足を止めた。

 趣のある平屋建ての一軒家。古い家なのだが造りはしっかりとしており、概観も内装も綺麗だった。母と子の二人には広すぎる家だったが、お世話になっている城守家の計らいでこちらへと引っ越してきた日から住まわせて貰っている。日向も好きで綺麗に大切に住んでいた。
 明かりが点いている引き戸の玄関の前に立ち、日向はふと気付いてしまった。そういえば、帰りがいつもよりも遅い時間になっている。母が心配していないだろうか。
 ガラガラと引き戸を開ける――と、日向が思っていたように母が小走りで玄関に姿を現した。

「ただいま。ごめんなさい、帰りが遅くなって」
「おかえりなさい。良かった、心配して――」

 日向の姿を確認し、心配顔を微笑みに変えて出迎える……が、日向の後ろに佇む二人に気付き、母は驚いたように動きを止め、そして、すぐに悲しそうに瞳を伏せた。

(……お母さん)

 驚くことは分かるとしても、何故、その後すぐに悲しむのか――母の表情に内で呟く日向の後ろから、蒼紅の二人は玄関へと足を踏み入れた。

「十四年ほどになるか」

 蒼き袴の女は静かに呟き、そして、母の名を呼んだ。

「久しいな、陽織」